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東京地方裁判所 昭和56年(行ウ)152号 判決 1985年6月13日

原告 ノース・ウエスト・エアラインズ・インコーポレイテッド

被告 東京都地方労働委員会

参加人 ノースウエスト航空日本支社労働組合 外一名

主文

一  被告が都労委昭和五三年(不)第一三一号及び同昭和五四年(不)第五号各事件について昭和五六年一一月一〇日付でした命令はこれを取消す。

二  訴訟費用は被告及び参加人らの各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する被告及び参加人らの答

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  不当労働行為救済命令の存在

参加人ノースウエスト航空日本支社労働組合(以下「参加人組合」又は「組合」という。)及び参加人城間恒(以下「参加人城間」又は「城間」という。)は、被告に対し、原告を被申立人として不当労働行為救済の申立をしたところ(参加人組合の申立にかかるものとして都労委昭和五四年(不)第五号事件、参加人城間の申立にかかるものとして都労委昭和五三年(不)第一三一号事件)、被告は、昭和五六年一一月一〇日付で別紙命令書記載の命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令書の写しは同年一二月八日原告(以下「原告会社」ともいう。)に交付された。

2  命令の取消理由

本件命令は、次のとおり事実を誤認し、法律の適用を誤つて原告会社に不当労働行為があると判断したものであり、違法である。

(一) 本件命令において、原告会社の予約課におけるジユニア・リザベイシヨン・エイジエント(一般予約課員、以下「ジユニア」という。)からシニア・リザベイシヨン・エイジエント(上級予約課員、本件命令主文にいうシニア・リザベイシヨン・セールス・エイジエントと同じ、以下「シニア」という。)への昇格について、概ね先任順位による昇格が行われてきていると認定されているが、その根拠はなく誤つている。

(二) 本件命令において、原告会社が、城間をジユニアからシニアへ昇格させなかつたことについて、その合理性が極めて疑わしいと認定されているが、その根拠はなく誤つている。

(三) 本件命令において、原告会社が城間をシニアに昇格させなかつたのは城間の組合活動を嫌悪していたところに真の動機があり、原告会社の右行為は不当労働行為に該当すると認定されているが、根拠のないものであり誤つている。

(四) 本件命令は、城間をシニアに昇格させるよう命じているが、これはシニア昇格についての原告の有する人事権に不当に介入するもので、違法な命令である。

3  よつて、本件命令の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否(被告及び参加人ら)

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2は、否認ないし争う。

三  抗弁(本件命令の適法性に関する被告及び参加人らの主張)

被告の認定した事実は別紙命令書の理由「第1認定した事実」欄(以下「命令書事実欄」という。)記載のとおりであり、また、被告のした法律上の判断は同命令書の理由「第2判断」欄(以下「命令書判断欄」という。)記載のとおりである。被告のしたこれらの事実認定及び判断には何らの瑕疵もないから、本件命令は適法である。

四  抗弁に対する原告の認否及び反論

命令書事実欄記載の事実のうち、以下に事実認定の誤りとして指摘する部分は否認する。命令書判断欄記載の判断については争う。

1  ジユニアからシニアへの昇格と先任順位(先任順位による昇格慣行の不存在)について

以下のように、原告会社の予約課においては、先任順位による昇格慣行は存在しない。

(一) 予約課における過去の昇格の実情

(1) 過去の昇格事例

イ 命令書事実欄4(3)のうち、予約課におけるシニア昇格の実態として、概ね先任順位による昇格が行われてきているとの事実は否認する。

ロ 命令書事実欄4(3)の一覧表のうち、整理番号11番のH2、13番のT及び16番のNKについては先任順位によつていないことが明らかであるとの事実は認める。

ハ 右一覧表のうち、整理番号1番ないし3番の三者については、これらの者が先任順位による昇格者であることは否認する。本件の被告委員会の審理においては、昭和三七年六月一日以降のジユニアからシニアへの昇格者について先任順位か否かが争われていたのであるから、この三者を先任順位による昇格者に入れるのは不公平である。

ニ 同一覧表のうち、整理番号4番、5番、8番、12番、14番についての記載は認める。これらは、いずれも追い越しによる昇格者であり、先任順位による昇格者でないことは明らかである。

すなわち、4番のH1である橋爪英一は、昭和三五年八月一日予約課に入社したのであるが、昭和三七年六月一日に横山隼尉(昭和三五年四月一日予約課入社)及び井上和男(昭和三五年五月一日予約課入社)の二人を追い越してシニアに昇格したことは明らかである。

また、5番のS3すなわち酒井政和は、昭和三六年四月一〇日予約課に入社したものであるが、昭和四一年六月一六日に右井上を追い越して昇格した。確かに右井上は途中二か月余り運航課に配置転換になつていたことがあるが、井上の職種先任順位は予約課における勤務時間を通算して算定されるのであり、先任順位は井上の方が上であり、酒井が井上を追い越して昇格したことに変わりはない。

そして、8番のK2すなわち小林政弘は、昭和三八年八月一日予約課に入社したのであるが、昭和四三年八月一日に官田裕彦(昭和三八年七月二二日予約課入社)を追い越して昇格したもので、一〇日といえども追い越しによる昇格であることに変わりはない。

さらに、12番のS5佐藤貞郎は昭和四一年七月四日に、14番のO小沢克明は昭和四一年一〇月一日に、それぞれ予約課に入社したものであるが、前者は昭和四六年九月一日に、後者は昭和四八年四月にそれぞれ15番のM2村山僖和子(昭和三九年五月一一日予約課入社)を追い越して昇格したものである。

ホ そもそも先任順位による昇格ということは、能力等の評価をせず、ただ先任順位だけを考慮して昇格させる場合を意味するもの、すなわち、昇格を命ずる者及び命ぜられる者がともに該当者の先任順位を最大の理由と認識して昇格を命じ、これに従つたという場合を意味するものと考えられるところ、整理番号6番、7番、9番、10番、15番については、かかる意味での先任順位による昇格に該当するものではない。すなわち、この番号に該当するM1松村堯二、k1加藤朝生、S4周瑞坤、Y山口和郎、M2村山僖和子のうち、前四者は昇格当時たまたま最先任者であつたが、これらの昇格はいずれの場合も該当者が業務に積極的であつたこと、仕事に熱心であつたこと、あるいはリーダーシツプがあつたこと等の要素が評価されて昇格させられたもので、先任順位は全く考慮されなかつたものであり、また村山については昇格するまでに過去何回か追い越され、その度に能力等について上司から評価を受け、その後に昇格したもので、右のような先任順位による昇格とはいえないのである。

ヘ このように、過去の昇格事例をみても、到底原告会社の予約課において、概ね先任順位による昇格が行われてきたものということはできない。

(2) 過去の昇格事例の際における参加人らの態度

右命令書の一覧表整理番号4番、5番、8番、11番、12番、13番、14番は、すでに述べたとおり、先任順位の者を追い越して昇格があつた例であるが、この際に参加人組合が何らかの異議を述べたことはなかつた。しかも、11番のH2及び13番のTの場合は、追い越される先任順位の者として参加人城間も含まれていたが、先任順位を守らないなどという抗議は参加人組合からはなかつた。このことは、予約課において先任順位による昇格が慣行として行われていたとの事実がないことを示すものである。

(二) 予約課におけるシニアの職務の性質

シニアは、ジユニアの指導・訓練を担当し、その上級職制であるスーパーバイザーを補佐してシフト制勤務のジユニアに対し直接実務面の指示と指導を与え、種々の相談を受ける職務である。したがつて、シニアの業務内容は広い範囲にわたりかつ指導力・判断力を要する仕事であつて、予約課員になつて一定の年限さえたてば、誰にでもできるというような性質のものではない。このような点からも、原告会社の予約課において、先任順位によるシニアへの昇格の慣行が生まれるとは考えられないのである。

(三) 労働協約の定め

原告と参加人組合(原告の従業員により組織されているものであり、参加人城間もその組合員である。)との間の労働協約には、参加人組合結成当時から現在まで、昇格に関し次のような規定がある。

「従業員は、功績及び上級の責任、技術を必要とする地位に任ずる能力に応じ、社内にかかる地位の生じたる際は昇進の対象として考慮される。」

他方、協約の中では、先任順位について明確な定義を設けたうえ、人員整理の場合には先任順位に基づいて整理の順位が決定されることが明記されている。

このように、労働協約に定める昇格は、明らかに先任順位の昇格とは異なるものであり、むしろこれを排斥するものであることが明らかである。

また、労働協約の規定は、就業規則はもとより、事実たる慣習にも優先するものであるから、協約の当事者である原告会社と参加人らとの間においては、右協約の規定に反する先任順位による昇格を要求することは許されないところであり、被告としてもそのような要求を是認する決定はなし得ないものである。

参加人らは先任順位の昇格の慣行を主張し、そのような慣行に基づくものとして参加人城間のシニアへの昇格を命ずる救済命令を求め、被告はこの申立を認めたものであるが、いずれも右のような労働協約の規定を無視するものであつて許されないものである。

(四) 原告会社における先任順位による昇格の不合理性(採用実態)

通常、採用される者が採用の際、実質はともかく形式上同レベルであつた場合、たとえば同年度、同程度の大学卒であつたような場合には、入社時の先任順位による昇格が一応合理性を有する場合がありうるであろう。

しかし、原告会社の採用実態は、採用の際に形式上ですら同じレベルであるなどというものではなく、たとえば、学歴については、正規の大学四年を卒業した人、短期大学を卒業した人、夜間の大学を卒業した人等様々であり、同じく大学といつても日本の大学を卒業した人、アメリカの大学あるいはカレツジを卒業した人等があり、もちろん大学を卒業していない人、セクレタリー学校等特殊の学校を卒業した人もいるのである。

さらに採用の時期という点においても、原告会社においては日本の企業のように通常毎年四月にある一定の人数を採用するというのではなく、人員が必要になつた都度、あるいは社員が退職し補充の必要性が生じた都度、新聞広告等で募集しているのである。

次に原告会社に採用された人は、そのほとんどが他の企業において勤務した経験のある人達であり、その勤務歴にも長短があり、採用時に他の会社での勤務歴のない人は非常に少なく、採用時の年令もまちまちである。したがって、原告会社に入社したのが遅れても、その人の学歴、勤務歴、年令等からみて先に入社した人よりも仕事のうえでははるかに能力や信頼性があるといつた事例は数多くあるわけであり、昇格にあたり入社後の同一職種での勤務年数だけを基準にし、先任順位に従つて昇格させることがいかに不合理であるかは自明の理である。

以上の原告会社全体の採用実態からしても、先任順位による昇格の慣行があるはずのないことが分るはずである。

(五) 原告会社の予約課以外の課における昇格

原告会社の整備課、運輸部貨物課、同部旅客課、同部搭載課、機内食課においては、一〇人以上の先任者を追い越して昇格する例は決して珍しいことではないのであり、予約課以外においても先任順位による昇格が慣行となつていないことがわかるのである。

2  原告会社が城間を昇格させなかつたことの合理性

原告会社が、昭和五三年一一月一〇日に城間を昇格させず、中村を昇格させたことには、以下の理由により合理性がある。

(一) 城間の先任順位

命令書事実欄5(1)のうち、昭和五三年一一月一〇日の時点において、城間がジユニアの最上位の先任者であつたとの事実は否認する。

右時点においては、城間より上位の先任者として、小野健次、山口和郎の二名がいたのであり、右認定は誤つている。

(二) 城間と中村の適格性についての主張について

同5(2)冒頭の「会社は、本件審査において、シニア昇格に係るNKの適格性と城間の不適格性についてつぎのような理由をあげている。」との説示の趣旨は、その部分に述べられている理由が、昇格又は不昇格判断時の直接的な根拠事実であつたことをいうかのようであるが、この認定は誤つており、否認する。

原告が被告委員会において主張したのは、右昇格ないし不昇格はあくまで右両名の能力、勤務成績及び執務態度等を総合勘案して中村は城間より適格であると判断したということであり、原告は右のような総合判断の合理性を根拠づける事実の例として、昇格時前後の両名の勤務に関連するいくつかの具体的事実を主張したものである。

(三) 中村の適格性に関する具体的事実について

(1) 出勤状況

命令書事実欄5(3)<1>の事実は否認する。

中村は、シニアに昇格する以前から午前九時と定められている始業時間に対して十分余裕のある時間帯に出勤し、勤務の準備を整えた後、勤務時間開始と同時に業務に着手できる状態になるようにしていたものである。他方、城間は、勤務開始時刻の直前ないしは勤務開始時刻後に出勤し、九時の勤務開始時刻には未だ業務に着手できる態勢になかつたのである。

原告会社としては、出勤時刻よりも早く出社するということだけから勤務態度が良いと評価しているわけではないのであるが、このような出勤状況の差一つをとつても、業務に対する姿勢、積極さ、几帳面さ等の点において、中村は城間に比較してはるかに優れていることが認められたのであり、シニアへの昇格につき中村がより適格であつたことは明白なのである。

(2) 予約電話受付業務

同事実欄5(3)<2>において、「所要時間や自らかけた場合の回数は記録されず、一回の通話で件数を処理したり、同一の機器を複数の者が使用する場合もあり、間違い電話や私用電話も最初に受けた人の回数に記録される。」と認定し、さらに、命令書判断欄2(2)<1>において、「必ずしも正確に表示しえない受けた電話の回数や電報処理の多寡を問題としている」と判断し、電話の受信回数等の比較だけで中村が城間よりも仕事を熱心にやつているとはいえないと判断しているが、この点は否認し争う。

勤務時間中における中村と城間の勤務に対する積極性、熱心さ等を比較する一資料として、予約電話の受付専門の業務を担当した場合、電話を受けた回数が中村の方が城間よりも多いことがあげられる。その際、被告が右命令書で指摘したような事情が仮にあるとしても、それは、中村と城間の両方に存在すると認めるべきものであり、また、受付回数の比較が極めて短期間の場合の比較であればともかく、右の比較の結果が一年以上にわたる長期間における比較である以上、その結果はたとえ特別事情を考慮しても両者の一般的な勤務態度を反映しているものと認めるべきものである。

(3) 執務上の参考書類の作成

同事実欄5(3)<3>は否認ないし争う。

中村は、シニアに昇格する以前から、予約課の業務に関連して予約課員の執務の参考にするため、あるいは予約課の業務能率の改善に資するため、自発的に種々の書類を考案・作成し上司に提出した。これらの資料は、どれ一つとして予約課に配布されているものをそのまま写したりあるいはその一部だけを写したというもの、すなわち、被告が本件命令で判断したように既存の資料から抜粋したにすぎないというものではない。いずれの場合ももとになる資料を中村が選択し、これらを分りやすく要約したり自らの考察により数字等を図表化する等して要領よく編集した資料である。

しかも、このような資料の作成は上司の命令によるものではなく、また中村はこのような資料を作成すべき特別の地位にいたものでもない。これらは、中村において、自発的にしかも必要な書類を上司の許可を得て借り出し、自宅に持ち帰つて作成したものであつて、このような自発的な書類作成を行つているものは中村以外にはいなかつた。

このような中村の執務態度は、業務に対する積極性、創造性、几帳面さ等を明白に示すものであり、また実際にそれらが予約課の業務に貢献したところからも、シニア昇格にあたり極めて重要な要素として高く評価されるべきものである。

その中村の作成した資料とは、以下のようなものである。

イ 中村は、昭和五二年一〇月ないし一一月頃にバジエツト運賃に関する資料を作成したが、これは作成当時においてはまだ正式に原告会社のマニユアルには登載されていなかつたものである。中村は、本社から送付されてきた資料及び運賃表等を参照し、図案化したり二つの資料を一体化して要約するなどして要領よく作成していて、バジエツト運賃についての種々の質問に答える場合に、はなはだ便利な資料となつているのである。

ロ 中村は、昭和五〇年、ペツトの運賃に関する資料を作成した。これは貨物課においてその価値を高く評価され実際に役立つものであるとされた。そしてそれは、空港の貨物課のみならず、旅客課及び予約課においても実際によく使用されているものである。右ペツトの運賃に関する情報は、予約課の業務と深い関係があり、アメリカ軍関係の顧客からしばしば質問を受ける内容である。この資料は、会社の資料をそのまま写したものではなく、中村の発案によつて作成されたものである。

ハ 中村は、昭和五二年一〇月以前に国際線手荷物許容量に関する資料を作成した。これは、原告会社のマニユアルであるインスタレズ・ハンドブツクの中から中村が情報をとり、分りやすく要約したものである。たとえば、右インスタレズの情報は単位がインチ、ポンド、ドルによる表示になつており、情報を乗客に提供する場合には、これらをセンチ、キログラム、円の単位に換算する必要があるのであるが、中村の作成した資料はそのような換算も付記してあり、業務上はなはだ便利である。このことは、参加人らが右資料のもとになつたものとして提出している丙第六号証と対比しても明らかである。

ニ 中村は昭和五二年頃妊産婦の予約受理条件に関する資料を作成した。これも、もとになる情報は原告会社のマニユアルに入つていたが、これを中村が図を書いたり簡潔にするなどしてまとめたものであつて、内容について問い合わせがあつた場合などにはこの資料に基づいて即答ができるので執務上役立つことは明白である。

ホ 中村は、昭和五三年一月頃ビザの種類に関する資料を作成した。これは原告会社のマニユアルから必要部分を抜き取つて要領よく作成したものである。航空会社に勤務する者にとつて、このような知識について、簡単にビザの種類を一覧表にして知つておくことは効果的であり必要でもある。

ヘ 中村は、さらに昭和四九年の春から六月頃にかけて、出発便取り扱いの手順についての資料を作成した。従来女性社員は出発便取扱業務をしていなかつたところ、コンピユーターの導入に伴い女性にもこの業務を担当させることになり、訓練をすることになつた。この訓練は原則としてシニア及びスーパーバイザーが訓練担当者に指名されて実施したものであるが、当時シニアでもなかつた中村は、経験もあり几帳面であるということから例外的に実地訓練を担当することになつた。右資料はこの訓練を効率よく行うために中村が作成したものであつて、この資料は大いに役立ち、同年に本社の担当者が来日した際この資料が目にとまり、非常に良いと賞賛されその写しを持つて帰つたものであり、またこれは訓練を受けるものが利用できるようにコンピユーターの上に備えつけられていたものである。参加人らは、右資料のもとになつたものとして二つの資料を挙げるが、これらの資料は合わせて一〇頁を超えるものであり、これに比し中村の資料はわずか一枚の表にまとめられているのであり、参加人らの挙げる資料にある個々の取扱手続に関する内容の説明は既に理解し知識のある予約課員にとつて、最も大切なのはこのような手続の手順及び必要な手続を忘れることなく実施することであり、そのためのチエツク・リストなのである。中村の右資料はこのためにも有用であつた。

ト 中村は、昭和五三年五月以前に羽田空港の銀行案内及びモノレールに関する情報を集めた資料を作成したが、顧客にとつてはなはだ有用な情報資料であつた。

(4) 一般旅行業務取扱主任者資格の取得

同事実欄5(3)<4>の事実それ自体は認める。しかし、このことから、一般旅行業務取扱主任者資格を取得した事実を中村のシニア昇格適格性を判断する根拠とすることができないかのごとき被告の判断は争う。

一般旅行業務取扱主任者資格はその資格試験に合格したもののみに与えられるものであり、合格率は約一割にすぎないものである。そして、予約課は航空空席の予約を受付けているものであるが、この予約受付けは九割以上が旅行代理店からの注文によるのであり、このような予約課と旅行代理店との密接な関係からしても、一般旅行業務取扱主任者資格が業務上有用なのである。なお、予約課においてこの資格をとつた課員は中村だけである。

確かに原告会社としては、右資格の取得を義務づけていない。しかし、種々の資格の取得は、直接、間接に従業員の知識・能力を高め業務に貢献するものであることは明らかであるから、積極的に従業員の資格取得を奨励する意味で、原告会社と参加人組合との労働協約においても「従業員が技術免許証、学校卒業証、その他技量資格証書等を得たときは、これを所属長および人事部に報告すること。この報告は将来の参考資料として各従業員の個人簿に保存され、転任、昇進の選定の要素とされる。」と定めているのである。中村の取得した右資格がこの協約に規定する技量資格に該当することは明らかである。

また、確かに中村に公けに資格が与えられたのは昇格後である昭和五三年一二月二五日である。しかし、この資格試験の準備には約一年を要するといわれているところ、中村は昇格前のジユニアの当時に準備をし、昇格前の右同年一〇月の上旬から中旬にかけて受験し合格したものである。このような中村の資格を取得しようとする積極的な意欲は、資格取得以前からあつたことは当然であり、またこれは業務上にも現われるものであり、このことを資格の与えられた時期が昇格後(直後である。)であることだけをとらえて、中村の昇格の適格性判断の根拠とすることができないとする被告の判断は誤つている。

(四) 城間の不適格性に関する具体的事実について

(1) 城間の職務上のミス

命令書事実欄5(3)<5><6>の判断については争う。

城間が職務上犯したミスは次のとおりである。被告は、以下のロないしホのことは、いずれも中村を含めた他の課員にも多くみられる程度のミスであり、またこれらの事柄はすべて中村のシニア昇格後のことであるとして、かかるミスを城間の不適格性の判断の要素とすることはできない旨の判断をしているが、誤りである。すなわち、以下のことは、業務上重大な結果を招来しかねないものであり、このようなミスは他の予約課員にはみられないミスである。また、城間のように一人でこのように多くのミスを犯し、報告されているものは他にいないのである。そして、城間の以下のミスは、いずれも中村の昇格後一年以内のものであり、このような昇格後の城間のミスから昇格時における城間の不適格性が十分に推認できるのである。

イ 昭和四三年、足の不自由な客が、松葉杖を使用しているため、窓際の座席を希望したが、城間は、その希望に応ずる処理をしなかつた。この苦情を城間に伝えたところ、同人は「思い出せない。」と答えた。これは、原告会社の評判にも影響する重大なミスである。

ロ 城間は、昭和五三年一二月、機内食課への機内食の注文変更を誤り、機内食の数を一〇〇食以上少なく指示した。これは、単に間違えて記録したに過ぎないなどというものではなく、飛行機の出発の遅れにもつながる重大なミスである。また、実際には誰かが城間のミスに気づき、ことなきを得たが、この結果によりミスをとるに足りないとすることはできない。さらに、このミスを指摘されても城間には、はつきりそのミスを認める態度が全くみられなかつた。

ハ 城間は、昭和五四年一〇月、座席情報の連絡の際、誤つて前日の分を指示した。これは座席指定の電報といわれているものであり、たとえば飛行機が東京からホノルルを経てロスアンゼルスへ行くとした場合、既に使用されている座席をあらかじめホノルルに知らせておき、ホノルルではそれに基づき現地の客に残りの座席を割り振ることにしているものであるから、右のように誤つて前日の分を電報で送ると現地での座席指定が混乱し、業務に非常に大きな支障を及ぼすことになるのである。このミスを指摘されても、城間からは反省の言葉がなかつた。

ニ 城間は、昭和五三年一二月、団体予約席記録照会の電報において、搭乗地を「香港」とすべきを「マニラ」と打つた。これは、極めて初歩的な犯してはならないミスである。

ホ 城間は、昭和五四年四月、ホテル手配の際、「クリーブランド」を「東京」とした。これは、城間の注意力の著しい懈怠であるといわなければならない。

(2) シアトルでの訓練

同事実欄5(3)<7>の判断については争う。

原告会社は、昭和四八年、城間を含めて約二〇名の予約課員をコンピユーター訓練のためにシアトルに派遣したが、城間は呑みこみが悪いと試験官から批評された。被告は、これを五年も前のことであり、またそのことにより格別業務上の支障があつたとも認められないとして、とるに足りないことであると判断しているようであるが、たとえ昇格が問題となつた時から五年前のことであつても、その後コンピユーターに関する城間の能力が向上したことの主張、立証がないのであるから、本件中村の昇格時においても城間の能力は依然として向上していなかつたと推認すべきであり、また予約課員にはコンピユーターに対する適応能力が要求されていることは明らかであり、その能力が低ければ日常の業務に少なからぬ悪影響を及ぼしていることは容易に推認できるのである。

(3) 夜勤時の電報処理

同事実欄5(3)<8>の判断については争う。

夜勤時の電報処理について、城間は他の者に比べて夜勤明け時における未処理電報の数が多かつた。被告は、単に夜勤明け時における未処理数だけで夜勤時の仕事量をはかることはできないとするが、不当である。確かに、夜勤開始までの電報の未処理数が非常に多ければ夜勤担当の者がその未処理電報を処理しなければならない関係上、夜勤開始後の電報を処理する時間が不足し、夜勤明け時に未処理電報が残存することがある。しかし、城間の未処理電報数は、他の課員に比較して毎回常に多かつたのであり、城間が夜勤担当の時に限つて、夜勤開始時までの未処理電報の数が多かつたということはあり得ないのである。したがつて、これは城間の処理能力や意欲が不足していたところから起こつたものである。この点については、シニアの山口が城間に対してその勤務状況を批判していたところである。

(4) その他

イ 昭和五〇年頃から五一年にかけて、団体予約取扱いの業務に関連して、予約課では土曜日に会合を開いていたが、城間は、疲れるとか仕事の割り振りが不公平だとして一日交替によることを強く主張した。これは、旅行代理店との間の引き継ぎ、仕事の損失を無視した議論であつた。

ロ 昭和五二年一一月頃、予約課員の間で団体予約の交替について協議をしていたところ、城間が、ジヤンケンで決めればいいじやないかと口をはさんだ。

ハ 城間は当審において、乙第一四七号証の一、二に関連して、それを間違いとし、超過料金についての原告会社の規定の内容を正確に理解していないことが明らかとなつた。また、丙第六号証についても城間は業務上の知識の不十分さを暴露した。

ニ 昭和五五年一二月、マニラ行きの便の団体客取扱いについてのサービスの手落ちが発見され、城間はこれについて調査し報告したが、その報告に関し、城間は、予約課のマネージヤーに報告するのではなく、さらに上級の営業部門の責任者であつたスミスに直接報告した。この点について城間は予約課のマネージヤーといえども課員がどのような仕事をしたかということを把握しなくてよいことがあるなどと陳述しているが、これは組織の中で業務に従事している者としての常識に反し、城間に予約課の業務の遂行についてマネージヤーの指揮監督の下に一体となつて能率の向上に努めるという態度が全くみられない証左であり、城間はシニアの適格性を著しく欠いている。

さらに、右報告書について、外資系企業である原告会社においては、報告書に限らず、社内文書は英語で書くことが要請されており、しかもアメリカ人であるスミスに対する報告書であるにもかかわらず、城間は日本語で報告したものであり、これについて注意を受けると、城間はスミスには秘書がいるので翻訳は秘書に任せればよい、注意を受ける理由はないと陳述していて、原告会社における執務上のルールや指示に従わず、上司と協力して業務を遂行していく姿勢が欠けていることが明白である。

3  不当労働行為(意思)

命令書判断欄の判断は争う。

(一) 同判断欄2(2)は、中村について先任者をさしおいてシニアに昇格させるに足りる合理性が認められないのみならず、城間を不適格と評価したことの合理性も極めて疑わしいとするが、この判断は、右2において主張したとおり誤つている。

(二) 同判断欄2(3)は、本件昇格問題が生ずる一年前までの三年間、城間が組合書記長として下請対策をめぐる一連の事件等で、原告会社との対立抗争において中心的活動をしており、これについて会社が快く思つていなかつたと認定、判断しているが、この判断はそもそも無意味なものである。すなわち、快く思つていなかつたかどうかということは、単なる内心のことであり、それが内心に止まらず具体的にたとえばいやがらせをするような行為に出た場合にはじめて問題となるものであるが、原告会社はそのような行動に出たことは一切なかつたのである。

(三) 同判断欄2(4)は、同判断欄2(2)、(3)のこと及び城間と同じ職場で働いている予約課員や、昇格前に退職したスーパーバイザーが城間を昇格の適任者であるとしていることからみて、原告会社が城間をシニアに昇格させなかつた真の動機は、城間の組合活動を嫌悪したものと推認せざるをえないとするものである。

しかし、そもそも、前掲1、2の本件昇格についての主張から明らかなように、本件昇格において、中村と城間を比較した場合、シニアとしては中村が適格であることは明白であり、中村の昇格の合理性がないとする被告の判断は誤りである。そうすると、城間の不昇格は、当然の帰結であつて、城間が組合活動の中心人物であつたとか、会社が城間を快く思つていなかつたこと等のことは意味をなさないのであり、これらについて判断するまでもなく、不当労働行為は成立しないのである。

なお、予約課員や、昇格前に退職したスーパーバイザーの右陳述書は、主観的な陳述であり、何ら客観的証拠になりえないものである。

(四) 同判断欄2(5)は、組合活動家の昇格例についての原告会社の主張を排斥しているが、なぜ城間についてだけ原告会社が組合活動家であることを理由に昇格させなかつたかということについては極めてあいまいな理由しかなく、またこのように城間についてだけ組合活動を問題視したとするのは、あまりにも不合理である。

組合活動家に関する昇格の例としては、まず中村は本件の昇格において一三名の先任者を追い越して昇格したのであるが、その先任者の大部分は組合活動家ではなかつたこと、そして参加人組合の執行委員長等を歴任した機内食課の浜島は先任者を追い越して昇格したことがあること、そのほかにも整備課の小林、見滝、伊藤、水出、加藤はいずれも組合の役員の地位にあつたことがあるが、先任者を追い越して昇格していること等がある。これらは、原告会社が組合員の昇格にあたつて、組合活動を嫌悪して差別的取り扱いをしているものではないことを裏づけるものである。

五  被告及び参加人らの再反論

1  先任順位による昇格について

参加人らは、一次的には、原告会社予約課のシニアへの昇格は先任順位によつているので、それに従えば、城間はシニアに昇格されなければならないものと主張するものである。

(一) 過去における予約課の昇格の例について

(1) 原告は、命令書事実欄4の一覧表に記載の予約課における過去のシニアへの昇格例のうち、昇格が昭和三七年以前の例については算入すべきでないとするが、その理由はなく、また被告委員会においても限定して論じたことはない。

(2) 原告は、右一覧表のうち、4番のH1橋爪は二人を追い越したと主張するが、橋爪とそれらの者との入社年月日の差は四か月と三か月で、入社年度は同じであり、とりわけ異例の人事ではない。

また、5番の酒井については、追い越しが問題となる井上は、昭和四〇年一一月一一日から翌年二月一日まで希望により運航課に配置転換されていたのであるから、昭和四一年六月の昇格に際しては、井上は、同年二月入社と扱われるのであり、この酒井が先任者として昇格したのである。なお、原告会社と参加人組合との間の労働協約上も三七条B項において「職種先任順位は会社に於て勤務中断なしに同一職種で働いた期間の総計により算定する。」となつている。

同8番のK2小林については、同人は、スペースコントロール部門を一人で担当しており、当該部門におけるシニア昇格としては先任順位によるものといえる。さらに、同人と原告主張の追い越された者との入社年月日の差は一〇日足らずであり、その者は、入社直後に病気のために入院し欠勤しているのである。

同12番のS5佐藤、14番のO小沢については、先任順位では村山僖和子を追い越したことになるが、当時、予約課としては女性をシニアには昇格させない方針・慣行であつたので、これらの例も先任順位に従つた昇格ということができる。

(3) このように、先任順位でないと明確にいえるのは、同一覧表の11、13、16番の三例にすぎず、概ね先任順位に従つてシニアに昇格しているものである。

(二) 予約課におけるシニアの職務内容について

予約課の業務内容は、特に専門能力を必要とするものではなく、入社して半年も経験すれば一応の知識を身につけることができる。したがって、予約課の経験がたとえば二年位の一定年数に達すれば、業務能力等ではほとんど差がなくなつてくるのであり、大きな差というのは先任順位なのである。

ジユニアとシニアの業務内容にも本質的な差はない。すなわち、ジユニアとして一定の経験があれば、シニアの職務に十分耐えられる。現に、予約課の全時間帯をカバーしているのはジユニアであつてシニアではない。

(三) 原告会社における先任順位の重視について

原告会社においては、いわゆるレイオフが頻繁に行われるが、それを命ぜられるのは先任順位の低い者からであり、ここでも先任順位は重要視されるのであり、労働協約上では、その三五条で、「執務能力と先任順位」により決定することになつているが、過去は先任順位のみで決定されている。

原告会社及び参加人組合も先任順位を重視し、その計算方法につき労働協約三七条に明記してある。

2  城間がシニアに昇格されるべきことについて

参加人らは、二次的には、仮に先任順位による昇格が認められない場合でも、昭和五三年一一月の時点では城間はシニアへの最適任者であると主張するものである。

(一) 昭和五三年一一月における城間の先任順位について

右時点において、形式的には城間より上位に小野健二及び山口和郎の二人がいたが、小野は昭和四八年一二月一日、通信課の縮小に伴い予約課に配置転換されたものであるし、山口は昭和五年一月に先任順位に従つてシニアに昇格したが、昭和四六年九月にジユニアに降格されているので、実質的には城間が最上位の先任者であつたのである。

仮に、城間の先任順位が第三位だとしても、昭和五三年九月の時点で上位職の欠員はシニアが一名、スーパーバイザーが二名なのであるから、第三位の先任順位に従つて、城間はシニアに昇格されるはずであつた。

(二) 中村の適格性の主張について

(1) 出勤時間

中村が早く出勤するようになつたのは、シニアに昇格して後のことであり、原告会社が昇格後の出勤状況を持ち出さねばならないこと自体、昇格人事の不合理性を明らかにするものである。

(2) 電話の受信回数

本件について原告が労働委員会において提出した証拠は故意に一部の期間についての記録を欠いており、比較の資料として適当でないものであつた。

また原告は電話を受けた本数を比較しているが、一回の通話に要する時間は一定でなく、一回の通話で数件の場合を処理することがあり、間違い電話も一回と記録され、指名又は私用電話も最初に受けた人の回数に入ること、電話を受けるばかりでなくかけることもあるが、このかけた電話は回数として記録されないこと、時により複数の者が同一の機械を使用することがあるが、その場合には本数の区分は不可能であることなどからすると、電話の本数だけから仕事の熱心さを判断することは到底できないのである。

(3) 中村の作成した参考書類

これに関する命令書の認定、判断が正当であることは、前述のとおりである。

すなわち、原告主張の各書類は、中村がシニアに昇格した後に作成したもの、既に予約課に配布等されているものから抜粋したにすぎないもの、予約課としては存在価値がないもの、内容は同じであるが、従前あつた方式を変えたものにすぎないもの、また、予約課員の資格としては関連性がなく、必要のないもの等である。

(4) 一般旅行業務取扱主任者資格

これも右同様、これに関する命令書の認定、判断は正当である。

(5) 中村のミス

原告が、城間のミスとして主張する程度のミスは中村にも数多く存在する。また、中村は、ジユニア時代にデパーチヤー業務を担当して顧客から苦情が出て一年間デパーチヤー業務をはずされたことがある。

(三) 城間の不適格性の主張について

(1) 業務上のミスの件

イ 座席の希望の件

これに関する命令書の認定、判断が正当であることは、前述のとおりである。

ロ 機内食の注文変更の件

これはもともと城間の単なる書き間違いである。原告の主張は、いつ、誰が、誰に、いかなる方法で訂正したか、真にされたなら記録されるはずであるのに不明であるし、現に機内食課からは何らの苦情もなかったのであり、右主張は不自然で信用できない。

ハ 座席状況の伝達の件

このミスにより業務に大きな支障を及ぼすということはない。このような場合、予約課以外に旅客課がチエツクすることになつており、ミスは容易に発見でき、訂正されるのである。さらに、ミスを指摘された際、城間は原告主張のような態度をとつたことはない。

ニ 電報ミスの件

誰もがしばしば行なつているケアレス・ミスであつて、とるに足らないものである。このようなミスは前後の状況から明らかなミスと分るため、電報を打ち直したりすることすらない。このようなミスを強調すること自体、原告会社が城間を嫌悪している証左である。

(2) シアトルでの訓練の件

この点も何ら非難に値しない。原告主張の批評が事実であつたとしても、会社における業務遂行能力と訓練の成績が直接結びつくものではないし、訓練はあくまで訓練であり、問題は、訓練後どのような業務知識、能力を身につけ、それを実行しているかである。城間が具体的に業務上どのような不都合を生じたかの主張、立証はないし、城間の業務遂行には何ら問題はない。

なお、これは本件昇格より五年前のことであり、昇格の適格性との関連性は薄い。

(3) 夜勤における電報処理数の件

原告主張のような、城間の夜勤明けの時に限り未処理電報数が常に多いという事実はない。

(4) その他

ジヤンケンの件については、予約課の業務が公平に分担されていなかつた当時のことであり、その後組合の尽力により輪番制になり、苦情は出なくなつている。その他、原告の非難はいずれも当たらない。

(四) 城間のシニアへの昇格の適格性

以下のとおり、城間はシニア昇格の最適任者である。

(1) 昭和四八年二月一日付で高橋がシニアに昇格したが、その頃、城間は猫田マネージヤーに呼び出され、「次回(の昇格)はできるだけ城間にと思つている。」と言われている。

(2) 城間は、過去の昇格時に候補者として上がつており、他のシニアに比して劣つている点はない。

(3) 予約課の同僚も、城間をシニアの最適任者と評価している。

3  不当労働行為意思について

以下の事実により、原告会社の不当労働行為意思は明白であり、本件は、原告会社が、組合活動家である城間を嫌悪してシニアに昇格させなかつたものであり、不当労働行為に該当することは明らかである。

(一) 原告会社の組合敵視政策

原告会社は、労務政策として一貫して組合敵視政策をとり続けてきた。その一環として昇格差別政策が採られている。

(二) 城間は、昭和四一年一一月一一日、原告会社に入社したが、同年一二月頃、参加人組合に加入し、以後組合の中央執行委員、交通会館支部副委員長、組合書記長、法廷対策部員等を担当してきており、活発な組合活動家である。

(三) 原告会社は、城間の行動を監視し、いわれのない批判を加えている。

(四) 中村は、もと組合員であつたが、組合には反対の立場であり、現に本件昇格の後、組合を脱退した。

第三証拠<省略>

理由

第一本件命令の存在

参加人組合及び参加人城間は、被告に対し、原告を被申立人として不当労働行為救済の申立をしたところ(参加人組合の申立にかかるものとして都労委昭和五四年(不)第五号事件、参加人城間の申立にかかるものとして同昭和五三年(不)第一三一号事件)、被告は、昭和五六年一一月一〇日付で本件命令を発し、右命令書の写しは同年一二月八日原告に交付されたことは当事者間に争いがない。

第二不当労働行為の成否

一  当事者及び本件昇格

1  以下の事実は、原告において明らかに争わないので、自白したものとみなすことができる。

原告は、日本国において肩書地に東洋支社を有し、日本とアメリカ、台湾、香港、フイリツピン、及び韓国等との間の航空輸送を業とするアメリカ法人であり、日本人従業員数は昭和五六年一一月当時約六〇〇名であつた。

参加人組合は、昭和三五年六月二三日、原告会社に勤務する日本人従業員が結成した労働組合であり、組合員数は昭和五六年一一月当時約四三〇名であつた。

参加人城間は、昭和四一年一一月一一日、原告会社の予約課にジユニアとして入社し、現在に至つている。

2  原告会社が、昭和五三年一一月一〇日、その予約課において、中村をジユニアからシニアに昇格させ、参加人城間を昇格させなかつたことは、当事者間に争いがない。

二  城間不昇格の合理性の有無・シニアへの昇格における城間の適格性(不利益取扱)の存否

1  原告会社における昇格等の実態

いずれも成立に争いがない乙第七号証、同第一四、一五号証、同第一二一号証、同第一三二、一三三号証、同第一五二号証、同第一五五号証、同第一六二(但し猫田肇の審問部分)ないし第一六七号証、丙第三号証及び証人猫田肇の証言によれば以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一) 予約課の構成及び同課におけるシニアの職務の性質

(1) 予約課は、主として電話による予約の受付、団体客の員数の確認等を業務の内容とし、本件昇格のあつた昭和五三年一一月一〇日の時点で、リザベイシヨン・セールス・マネージヤー(一名)、アシスタント・リザベイシヨン・セールス・マネージヤー(一名)、リザベイシヨン・セールス・スーパーバイザー及びスペース・コントロール・スーパーバイザー(各一名)、シニア(五名)及びジユニアで構成されており、右の順序で上位の職であるとされている。

(2) リザベイシヨン・セールス・マネージヤーは、東洋地区予約課の総合的監督、座席管理及び東京地区予約課の人事面を担当する。

アシスタント・リザベイシヨン・セールス・マネージヤーは、東京地区予約課の運営全般に責任を持ち、人事面を担当する。

リザベイシヨン・セールス・スーパーバイザーは、右二者を補佐して、東京地区予約課の運営を企画・立案し、日常業務全般を監督する。

スペース・コントロール・スーパーバイザーは、本社委任による東洋地区の座席管理面を主として担当し、その他、予約課運営の一端を担う。

シニアは、ジユニアの指導・訓練面を担当し、リザベイシヨン・セールス・スーパーバイザーを補佐して、交替制により、直接実務面の指示と指導を与えかつ相談を受ける。

すなわち、予約課の業務は、午前八時から午後一一時までであり、この時間は、ジユニアによりシフト制ですべてがカバーされ、シニアもシフト制で午前八時から午後一〇時三〇分までカバーしているが、前記スーパーバイザー以上の者は、午前八時から午後五時三〇分の間にしか勤務していないので、それ以外の時間帯でシニアの勤務時間帯の間は、シニアが監督者となる(以後、各勤務時間に変更もあつたが、シニアとジユニアで勤務している時間帯、ジユニアだけで勤務している時間帯がそれぞれ存在することに変わりはない。)。また、シニアは、日常の業務以外として、飛行機の遅延、欠航による乗客の他の便への振り替え等特別の事態に対する業務上の指示をし、また、病欠者が出た場合の人員の再配置等を行いジユニア全体の業務を直接に指示、指導する。そして、シニアは、業務全般について、毎日日誌を作成し、後に勤務するシニアに対して申し送る必要のある事項を特に記入することになつている。その他、シニアは、予約課に入つてきている電報を点検し、その内容を取捨選択して必要な事項を予約課員全体に伝達する仕事がある。さらに、予約課の業務の改善のためのスタツフ・ミーテイング等に出席して意見を述べたりする仕事もある。

ジユニアは、予約課の各業務を各々定期的に割り当てられ担当する。

(二) 予約課における過去のジユニアからシニアへの昇格の実情

(1) 過去の実例・昇格の態様

イ 斎藤光康、関博允、井上崇の三名は、昇格年月日は詳らかではないが、昭和三七年以前にシニアに昇格した。

ロ 橋爪英一は、昭和三五年八月一日予約課に入社したのであるが、昭和三七年六月一日に、先任順位の横山隼尉(昭和三五年四月一日予約課入社)及び井上和男(昭和三五年五月一日予約課入社)の二人を追い越してシニアに昇格した。

ハ 酒井政和は、昭和三六年四月一〇日予約課に入社したものであるが、昭和四一年六月一六日右井上を追い越して昇格した。なお、右井上は途中二か月余り運航課に配置転換になつていたことがある(なお、この井上について、追い越しになることについては後述する。)。

ニ 松村堯二は昭和四一年九月に、加藤朝生は昭和四二年一一月に、それぞれ昇格した。同人らは、右各昇格時において、予約課のジユニアの中で、最先任順位にあつた。

なお、松村堯二は、仕事に対して積極的で、熱心であり、その後、航空会社において、一般に希望者の多い営業部に移り、そのマネージヤーになつた者であり、加藤朝生も、仕事に対して積極的で、熱心であり、後に営業部の貨物課に移つた者である。

ホ 小林政弘は、昭和三八年八月一日予約課に入社したのであるが、昭和四三年八月一日に、官田裕彦(昭和三八年七月二二日予約課入社)を追い越して昇格した。

ヘ 周瑞坤は、昭和四四年九月に、山口和郎は、昭和四五年一月に、それぞれ昇格した。同人らは、右各昇格時において、予約課のジユニアの中で、最先任順位にあつた。

なお、周瑞坤は、仕事に対して積極的で、リーダーシツプがあり、後にシンガポール航空に移り、その営業部長になつた者であり、また、山口和郎も、真面目で仕事熱心で、積極的であつた。

ト 橋本忠昭は、昭和四二年六月一日に予約課に入社したのであるが、昭和四五年八月一日、村山僖和子(昭和三九年五月一一日予約課入社)、佐藤貞郎(昭和四一年七月四日予約課入社)、藤井泰二(同年九月一二日予約課入社)、小沢克明(同年一〇月一日予約課入社)、参加人城間、高橋裕(昭和四二年二月一六日予約課入社)の六人を追い越して昇格した。

橋本忠昭は、仕事の知識において非常に優れていて、非常に正確に仕事を行う者であつた。

チ 佐藤貞郎(前記)は、昭和四六年九月一日、前記村山僖和子を追い越して昇格した。

リ 高橋裕(前記)は、昭和四八年二月一日、前記村山僖和子、小沢克明、参加人城間の三人を追い越して昇格した。

ヌ 小沢克明(前記)は、昭和四八年四月、前記村山僖和子を追い越して昇格した。

ル 村山僖和子(前記)は、昭和四九年一二月二〇日、昇格したが、同人は、右昇格時において、予約課のジユニアの中で、最先任順位にあつた。

ヲ 中村勝美は、昭和四五年六月一日に予約課に入社したのであるが、昭和五三年一一月一〇日、小野健次(昭和三四年九月二二日入社、昭和四八年一二月一日予約課に配置転換)、山口和郎(昭和三九年六月五日入社、昭和四〇年七月一日予約課に配置転換、なお、昭和四五年一月シニア昇格、昭和四六年九月から再びジユニア)、参加人城間等合計一四人を追い越して昇格した。

(2) 参加人らの過去の対応

右認定のように、過去にも、先任順位にある者を追い越して昇格した例もあつたが、本件中村の昇格の例を除いては、いずれの場合も、参加人組合において、原告会社に対し、先任順位を守らないこと等について、組合の活動として取り上げる形での抗議をしなかつたし、参加人城間も、本件までに二度後任の順位の者に追い越されているが、その際に右のような抗議をしたことはなかつた。

(三) 労働協約の定め

原告と参加人組合(原告の従業員により組織されているものであり、参加人城間もその組合員である。)との間には、参加人組合結成当時から現在まで労働協約において、昇格に関し次のような規定がある。

「従業員は、功績及び上級の責任、技術を必要とする地位に任ずる能力に応じ、社内にかかる地位の生じたる際は昇進の対象として考慮される。」

他方、協約の中では、先任順位について、明確な定義を設けたうえ、人員整理の場合には先任順位に基づいて整理の順位が決定される旨が明記されている。

(四) 原告会社における採用実態

原告会社の採用実態は、採用の際に形式上ですら同じレベルである等というものではなく、学歴については、正規の大学四年を卒業した人、短期大学を卒業した人、夜間の大学を卒業した人等様々であり、同じく大学といつても日本の大学を卒業した人、アメリカの大学あるいはカレツジを卒業した人等があり、もちろん大学を卒業していない人、セクレタリー学校等特殊の学校を卒業した人もいる。

採用の時期という点においても、原告会社においては、日本の企業のように通常毎年四月にある一定の人数を採用するというのではなく、人員が必要になつた都度、あるいは社員が退職し補充の必要性が生じた都度、新聞広告等で募集している。

また原告会社に採用された人は、そのほとんどが他の企業において勤務した経験のある人達であり、その勤務歴にも長短があり、採用時に他の会社での勤務歴のない人は非常に少なく、採用時の年齢もまちまちである。したがつて、原告会社に入社したのが遅れても、その人の学歴、勤務歴、年齢等からみて先に入社した人よりも、仕事のうえでははるかに能力や信頼性があるといつた事例もある。

なお、原告会社においては、勤務評定を行つていない。

(五) 原告会社の予約課以外の課における昇格

原告会社の整備課、運輸部貨物課、同部旅客課、同部搭載課、機内食課においては、先任者を追い越して昇格する例が相当数あり、中には、一〇人以上の先任者を追い越した例もある。

2  城間のシニアへの昇格の適格性に関する事実

いずれも成立に争いがない甲第三号証の一、二、乙第九三号証、同第九五号証、同第九九ないし第一〇二号証、同第一〇三号証の一、二、同第一〇四号証の一ないし三、同第一〇五ないし第一〇七号証、同第一三〇号証、同第一三四号証の一、二、同第一三五号証の一ないし三、同第一三六号証の一、二、同第一三七号証の一、二、同第一三八号証の一ないし三、同第一三九ないし第一四一号証の各一、二、同第一四三ないし第一五〇号証の各一、二、同第一五一号証、同第一五三号証の一、二、同第一五四号証、丙第五号証の一ないし三(いずれも原本の存在とも)、同第六号証(原本の存在とも)、同第一〇号証の一、二、証人野間永義の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一、二号証、同第四、第五号証、同第六号証の一ないし三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九、一〇号証の各一、二、同第一一号証、乙第四八号証、同第九〇号証、成立に争いがない乙第一六八、一六九号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一二号証、同第七八号証、前掲乙第一六二ないし第一六七号証、証人野間永義及び同猫田肇の各証言を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一) 中村の適格性に関する具体的事実について

(1) 出勤状況

イ 原告会社においては、始業予定時刻以後に就業用タイムカードを押した者は遅刻とみなされ、遅刻が一秒から五分台の場合は遅刻ではあるものの賃金カツトはされないが、それ以上の遅刻は、それぞれの所定の割合により賃金カツトされる。そして、原告会社において、中村及び城間に適用される始業予定時刻は、午前九時である。

ロ 中村がシニアに昇格する前である昭和五二年二月一日から同年七月一五日の間の中村と城間の出勤状況は、次のとおりである。

出社時刻(午前)

中村

城間

八時三〇分ないし同三五分

一日

〇日

八時三六分ないし同四一分

一九日

〇日

八時四二分ないし同四七分

二五日

一日

八時四八分ないし同五三分

一一日

一日

八時五四分ないし同五九分

一日

一五日

九時〇〇分ないし同〇五分

一日

二七日

九時〇六分ないし同一一分

〇日

〇日

九時一二分ないし同一七分

〇日

一日

九時一八分以後

〇日

〇日

合   計

五八日

四五日

右において特徴的なのは、始業予定時刻の前に出勤した日について、中村は、余裕をもつて出勤しているが、城間は、始業予定時刻に近い時刻に出勤した日が多いことである。遅刻については、中村は、賃金カツトにならない遅刻が一日ある(なお、これは、バスの遅延が原因である。)だけであるが、城間は、賃金カツトにならない遅刻が二七日もあり、賃金カツトになる遅刻が一日あつた。なお、タイムカードの記載からは、午前九時ちようどの出勤と同五分までの出勤は、区別がつかず、城間の右カツトにならない遅刻二七日という中には九時ちようどの出勤も含まれていることもありうるが、すでに認定のように九時ちようどの出勤も遅刻であることに変わりはない。

(2) 予約電話受付業務

イ 昭和五一年九月から昭和五三年四月までの間における、城間及び中村が予約電話の受付専門の業務を担当した場合の電話を受けた回数を比較すると城間は、右期間の総回数が三一二二回であり、三八日担当したので、その平均は、一日当たり八二・二回である。中村は、右期間の総回数が四〇二三回であり、四〇日担当したので、その平均は一日当たり一〇〇・六回である(前掲甲第四号証のうち中村の昭和五二年二月四日分の一一四回は削除し、代りに同年同月九日分として九一回が加えられるべきことは、前掲甲第九、一〇号証の各一、二及び同第一一号証によれば明らかである。)。そして、その対応する日における全担当者の平均回数は、一日当たり九八・五回である。

ロ なお、電話を受けた本数を比較するとしても、一回の通話に要する時間は一定ではなく、また、一回の通話で数件の場合を処理することがあり、間違い電話も一回と記録され、指名又は私用電話も最初に受けた人の回数に入る。そして、電話を受けるばかりでなく、かけることもあるが、このかけた電話は回数として記録されない。さらに、時により複数の者が同一の機械を使用することがあるが、その場合には本数の区分は不可能である。

(3) 執務上の参考書類の作成

中村は、シニアに昇格前、以下のような書類・資料を作成し、上司であるシニアに提出した。なお、これらの書類・資料を作成するように中村が命令されたことはなく、同人が自発的に作成したのである。また、これらの書類を作成するために、上司の許可を得てインスタ・レズ・ブツク等を自宅に持ち帰り、自宅にて勤務時間外に作成したものである。

その中村の作成した資料とは、以下のようなものである。

イ 中村は、昭和五二年一〇月ないし一一月頃にバジエツト運賃に関する資料(いわゆる特別割引料金による旅行についての情報)を作成したが、これは作成当時においてはまだ原告会社のマニユアル(インスタ・レズ・ハンドブツク)には掲載されていなかつたものである(後に特別割引料金についての規則等が掲載された。たとえば乙第九五号証。)。中村は、当時本社から送付されてきた資料及び運賃表等を参照し、図案化したり二つの資料を一体化して要約する等して、客からのバジエツト運賃に関する種々の質問に答える場合の資料として作成した。もつとも、右資料の内容となつたバジエツト運賃は、結果的には発効しなかつた。

ロ 中村は、昭和五〇年、ペツトの運賃に関する資料を作成した。これは貨物課においてその正確性が確認され、その価値を高く評価された。そしてそれは、空港の貨物課のみならず、旅客課及び予約課においても実際に使用された。右ペツトの運賃に関する情報は、予約課の業務と深い関係があり、アメリカ軍関係の顧客からしばしば質問を受ける内容である。この資料の内容は、会社のマニユアル等に部分的には載つている部分もあるが、会社の資料をそのまま写したものではなく、中村の発案によつて絵や表を取り入れて作成されたものである。

ハ 中村は、昭和五二年一〇月以前に国際線手荷物許容量に関する資料を作成した。これは、会社のマニユアルであるインスタ・レズ・ハンドブツクに記載があるが、この中から中村が情報をとり、分りやすく要約したものである。たとえば、右インスタ・レズの情報は単位がインチ、ポンド、ドルによる表示になつており、情報を乗客に提供する場合には、これらをセンチ、キログラム、円の単位に換算する必要があるのであるが、中村の作成した資料はそのような換算も付記してあつた。

ニ 中村は昭和五二年頃妊産婦の予約受理条件に関する資料を作成した。これも、もとになる情報は原告会社のノースウエスト・エアラインズ・マニユアルズ(厚さが一五センチメートル位である。)の中に入つていたが、これを中村が図を書いたり簡潔にするなどしてまとめたものであつて、内容について問い合わせがあつた場合等にはこの資料に基づいて即答できるように図つたものである。

ホ 中村は、昭和五三年一月頃ビザの種類に関する資料を作成した。これは、部分的には原告会社のトラベルマニユアルに載つているが、それから必要部分を抜き取つて作成したものである。航空会社に勤務する者にとつて、このような知識について、簡単にビザの種類を一覧表にして知つておくことは効果的なことである。

なお、中村は、昭和五二年九月以前に、韓国ビザに関する資料を作成した。これも他の資料等を参考に情報をとつてきて中村が作成したものである。

ヘ 中村は、さらに昭和四九年の春から六月頃にかけて、出発便取り扱いの手順についての資料を作成した。従来原告会社の予約課においては、女性社員は出発便取扱業務をしていなかつたところ、昭和四八年九月三〇日、コンピユーターが導入され、これに伴い女性にもこの業務を担当させることになり、昭和四九年二月頃スーパーバイザー等により訓練計画が立てられ、女性をも含めて予約課における訓練を実施することになつた。その訓練は、原則としてシニア及びスーパーバイザーが訓練担当者に指名されて実施したものであるが、中村は右コンピユーターの導入以来これを使用して出発便取扱業務をしており、このような業務の経験もあるうえに几帳面であるということから、中村をこの実地訓練の担当者に使いたい旨シニアから申出があり、これを当時スーパーバイザーであつた野間が許可した結果、当時シニアでもなかつたが、中村が例外的に実地訓練を担当することになつた。右資料は、この訓練を効率よく行うために中村が作成したものであるが、この資料は同年に本社の予約制度等の担当者が来日した際、右担当者の目にとまり、非常に良いと賞賛されその写しを提出させられたことがあり、またこれは訓練を受けるものが利用できるようにコンピユーターの上に備えつけられていたものである。

ト 中村は、昭和五三年五月以前に羽田空港の銀行案内及びモノレールに関する情報を集めた資料を作成した。これは、当時客からの問い合わせがよくあつた事項についてのものである。

(4) 一般旅行業務取扱主任者資格の取得

イ 中村は、一般旅行業務取扱主任者資格の取得のための試験について、昇格前のジユニアの当時に準備をし、昇格前の昭和五三年一〇月の上旬から中旬にかけて受験し、合格した。そして、シニア昇格後である昭和五三年一二月二五日資格が付与された。

ロ 一般旅行業務取扱主任者資格は、その資格試験に合格したものに与えられるものであり、合格率は約一割にすぎず、旅行代理店に二、三年勤務する経験を有する者でも約三割の合格率にすぎず、受験の準備に要する期間は約一年といわれている。そして、予約課は航空空席の予約を受付けているものであるが、この予約受付けは約九割が旅行代理店からの注文によるものであり、予約課は大半を旅行業者を相手として仕事をしていることになり、このような関係からも右資格は有用である。

ハ また、原告会社としては、右資格の取得を義務づけていないが、種々の資格は、直接、間接に従業員の知識・能力を高め業務に貢献するものであることは明らかであることから、積極的に従業員の資格取得を奨励する意味で、原告会社と参加人組合との労働協約においても「従業員が技術免許証、学校卒業証、その他技量資格証明書等を得たときは、これを所属長および人事部に報告すること。この報告は将来の参考資料として各従業員の個人簿に保存され、転任、昇進の選定の要素とされる。」と定めている。

(二) 中村の不適格性に関する具体的事実について

(1) 中村にも、仕事上のミスはあつた。

(2) 中村は、ジユニア時代にデパーチヤーの仕事を担当していたが、途中で一時スペースーコントロールの仕事に替わつたことがあつた。この頃、シアトル行きの便に遅れが出たことに関して客からの苦情、トラブルがあつた。しかし、このトラブルの処理に関しての中村の対応が原因でデパーチヤーの仕事からはずされたものと認めるに足りる証拠はない(中村自身がこれを認めていたとする乙第一六八号証の立川の証言部分及び同人作成の乙第八九号証の一の部分は、成立に争いがない乙第一五四号証及び前掲乙第一六七号証と対比すると容易に措信しえない。)。

(3) また、中村が、原告会社の人社試験において、最初の受験を失敗したとの事実を認めるに足りる証拠もない(この点も右事実に沿う証拠として乙第一六八号証の立川の証言部分及び同人作成の乙第八九号証の一の一部分があるが、前掲乙第一六七号証と対比すると容易に措信しえない。)。

(三) 城間の不適格性に関する具体的事実について

(1) 城間の職務上のミス

イ 昭和四三年、足の不自由な客が松葉杖を使用しているため、窓際の座席を希望したが、城間はその希望に応ずる処理をしなかつた。このため、その客から苦情が出たことから、野間がこれを城間に問い合わせたところ、同人は「思い出せない。」と答えたにすぎなかつた。

ロ 城間は、昭和五三年一二月、機内食課への機内食の注文変更を誤り、機内食の数を一〇〇食以上少なく指示した。これは、飛行機の出発の遅れにもつながるようなミスである。なお、実際には、誰かが右城間のミスに気づき、ことなきを得たものの、このミスについて、野間がシニアを通じて城間に問い合わせたところ、城間は、「間違つたのだろう。」などと返事をしたにすぎなかつた。

ハ 城間は、昭和五四年一〇月、座席情報の連絡の際、誤つて前日の分を指示した。これは、座席指定の電報といわれているものであり、飛行機が東京からホノルルを経てロスアンゼルスへ行く場合既に使用されている座席をあらかじめホノルルに知らせておきホノルルではそれに基づき現地の客に残りの座席を割り振ることにしているものであり、右のように誤つて前日の分を電報で送ると現地での座席指定が混乱し業務に非常に大きな支障を及ぼすことが予想されるものである。このミスを指摘されても、城間は間違いを認めたものの反省の言葉はなかつた。

ニ 城間は、昭和五三年一二月一六日、団体予約席記録照会の電報において、搭乗地を「香港」とすべきところを「マニラ」と打つた。

ホ 城間は、昭和五四年四月一八日、ホテル手配の際、「クリーブランド」でのホテルを予約するように依頼されたところ、「東京」としてしまつた。

(2) シアトルでの訓練

原告会社は、昭和四八年九月から東京にもコンピユーターが導入されることになつたため、同年、城間を含めて約二〇名の予約課員をコンピユーター訓練のためにシアトルに派遣した。その際、城間は、試験官の作成にかかる「コンピユーター予約訓練修得記録」の裏面において、試験官から「呑みこみが全く遅い。作業手順を理解するのに苦労したようだ。」と批評された。この訓練に参加した者でこのような批評をされた者は他にいなかつた。

(3) 夜勤時の電報処理

夜勤時の電報処理について、城間は他の者に比べて夜勤明け時における未処理電報の数が多かつた。この点については、シニアの山口が城間に対してその勤務状況を注意したところ、いさかいとなつたことがあつた。

(4) その他

イ 昭和五〇年頃から五一年頃にかけて、団体予約取扱いの業務に関連して、予約課では土曜日に会合を開いて討議をしていたが、城間は、疲れるとか仕事の割り振りが不公平だとして一日交替によることを強く主張した。

その後、右業務を一日交替でした場合、旅行代理店との間の仕事が引継ぎ等の関係で円滑に行かないこともあり、また、予約課の担当者自身においても、毎日引継ぎをしなければならないという仕事上の無駄が生ずるものであることから、原告会社としては、最初は一日交替であつたが、三日間単位、一週間単位、三週間単位、三か月間単位と交替制の期間を徐々に延ばしてきている。

ロ 昭和五二年一一月頃、当時、団体予約の担当として、ジユニア三名がA(アメリカ方面)、B(東南アジア方面)、C(その他電報処理)と原則として毎日交替制で業務を行つていた。その頃も右イと同様毎日交替で業務を変わることの弊害が指摘されていたところ、ある日、松村は、池口、松岡の三名で団体予約の業務についたが、松村は、前日担当したBの仕事について代理店との継続の仕事があるので当日もBを担当したい旨申出たが、松岡がそれに反対したところ、城間がジヤンケンで決めればいいじやないかと口をはさんだ。このことは、松村からシニアの酒井に報告された。

ハ 昭和五五年一二月、マニラ行きの便の団体客取扱いについてのサービスの手落ちが発見され、城間はこれについて調査し報告したが、その報告に関し、城間は予約課のマネージヤーに報告するのではなく、さらに上級の営業部門の責任者であつたスミスに直接報告した。そして、予約課のマネージヤーといえども課員がどのような仕事をしたかということを把握しなくてよいことがあるなどと陳述した。

さらに、右報告書について、外資系企業である原告会社においては、報告書に限らず、社内文書はすべて英語で書くことが要請されており、しかも、アメリカ人であるスミスに対する報告書であるにもかかわらず、城間は日本語で報告し、これについて注意を受けると、スミスには秘書がいるので翻訳は秘書に任せればよい、注意を受ける理由はないと陳述した。

(四) 城間の適格性に関する具体的事実について

(1) 過去の昇格選考においての候補と猫田の発言

イ 被告会社において、ポストに欠員が生じた場合、まず、その補充が必要か否かをスーパーバイザー、アシスタント・マネージヤーと相談のうえ、マネージヤーが判断し、会社の許可を得てそのポジシヨンを補充することを決める。そして、それから人選に入ることになるが、原告会社の予約課におけるシニアへの昇格をさせるに至る手順は、まずマネージヤーがスーパーバイザーの意見を聞き、その後、アシスタント・マネージヤーと協議のうえ昇格者への推薦者を決め、マネージヤーから東洋支社長に報告され、任命権者を有する東洋支社長により昇格が行われることになつている。

ロ 昭和四八年二月一日、高橋がシニアに昇格したが、その決定の会合の頃、斉藤スーパーバイザーから城間がシニアになれなかつたのに不満を持つのではないかとの発言があつたので、猫田は城間に会うことにした。そして、猫田は城間に対し、「城間君は、職場を空けることが多いので、どれくらい仕事ができるかという判断をするのにむずかしいので、このたびは昇格の件について考慮されなかつた。」という趣旨のことを話した(この時、「次は、城間を考えている。」という猫田の発言があつたことについては、これを認めるに足りる証拠がない。なお、右発言があつたとする参加人らの主張に沿う証拠として、成立に争いがない乙第一五九、一六〇号証、これらにより真正に成立したものと認められる乙第一三号証、同第二六号証があるが、前掲各証拠と対比すると容易に措信できない。)。城間はこのとき特に不満は漏らさなかつた。なお、猫田がスーパーバイザーの意見を聴取する際、城間の名前は出ていたが、候補者としては挙がつていなかつた(乙第四八号証、同第九〇号証のうち城間が候補に挙がつていたとする部分は前掲証拠と対比して容易に措信できない。)。

ハ 本件中村の昇格に際しては、中村と今村がスーパーバイザーから候補として意見が出たが、城間は候補にも挙がらなかつた。なお、この昇格においては、予約課員の中から事前に、次には城間を昇格させて欲しい旨の要望が出ていた。このような要望が出たのは、初めてのことであつた。

ニ この中村の昇格に関して、参加人らから苦情処理の申立てがあり、同人らは、原告会社に対し、労働協約三二条による書面による理由の開示を求めたが、原告会社は、中村の昇格に関するものは、同条に該当しないと説明してこれに応じなかつた。

(2) 予約課の同僚等の城間に対する評価

予約課の従業員らは、昭和五三年三月、城間をシニアの適格があるとして、原告会社に対して城間をシニアにするよう要請する要請書を作成し、これに一九名が署名し、さらに本件中村の昇格後、中村の昇格の撤回を求める要求書を作成し、二三名が署名した。また、原告会社を退職したスーパーバイザーが、城間がシニアに適任であると考え、推薦した旨の陳述書を提出している。

そして、他に以上の認定を左右するに足りる証拠はない。

3  判断

以上の事実をもとに、城間の不昇格が不合理であるか、不利益取扱といえるかについて判断する。

(一) 参加人らは、第一次的に先任順位による昇格の主張をするので、まずこの点から検討する。

(1) 原告会社予約課におけるジユニアからシニアへの過去の昇格例については前認定のとおりであり、これによると、全一六例は、次のように分類される。

イ 最上の先任順位にない者が昇格したものとして橋爪英一、酒井政和、小林政弘、橋本忠昭、高橋裕、中村勝美の六例がある。

なお、付言するに、

<1> 橋爪英一については、入社年度が同じで四か月先任の横山隼尉と同じく三か月先任の井上和男の二人を追い越してシニアに昇格したものであるが、これも厳格には先任順位によらない昇格というべきであり、少なくとも、この昇格には先任順位以外の要素が決め手となつたことが推測される。

<2> 酒井政和については、同人は、予約課への入社時期としてはより早い右井上を追い越して昇格したが、右井上は途中二か月余り運航課に配置転換になつていたことがあるので、この昇格時において、なお右井上の方が先任順位が上位であつたといえるか否かが問題となる。

そもそも、原告会社と参加人組合との労働協約の規定の解釈として、先任順位が昇格において考慮される要素にはならないことは後に判示するとおりであるが、配置転換と先任順位のみの問題に限定して検討するとしても次のように解される。

すなわち、前掲乙第一四号証、丙第三号証によれば、右労働協約第三七条B項で「職種先任順位は会社において勤務中断なしに同一職種で働いた期間の総計により算定する。」とされ、同条C項には「従業員が辞職、退職、解雇の際は勤務中断となり先任順位を喪失する。」と規定していることが認められ(証人城間の証言によれば、この規定は、井上の配置転換当時から不変であることが認められる。)、これによれば配置転換はC項に該当せず、B項にいう勤務の中断はないことになるから、右井上の先任順位は、予約課における勤務期間を通算して算定されたものによることになることは明らかであり、そうすると、既に認定の事実によれば、当時、右井上の方が先任順位としては酒井よりも上位にあつたことになるものというべきである。なお、乙第八一号証の三において、勤務表の下の方に井上の氏名が記入されていること、前掲乙第一五号証(昭和五三年度の労働協約)において、他職種への配置転換と先任順位の扱いについて従前の勤務期間を喪失しない旨の条項が付加されていること等によつても、直ちに井上の配置転換の当時には従前の先任順位が喪失される扱いをされていたものと推測することはできず、右認定、判断の妨げとはならない。

よつて、配置転換により従前の先任順位が喪失されることを前提として、右酒井が先任順位に従つて昇格したものとする参加人らの主張は理由がない。

<3> 小林政弘は、官田裕彦を追い越して昇格したことは前認定のとおりであり、参加人らは、右小林が、スペースコントロール部門の唯一の担当者であるとして、同部門の先任順位に従つたものであると主張するが、シニアは部門別に置かれているのではないことは前認定の事実から明らかであり、右主張は理由がない。

ロ 最上の先任順位の者が昇格したものとして松村堯二、加藤朝生、周瑞坤、山口和郎、村山僖和子の五例がある。

ハ 女性の昇格の関係で先任順位を無視した例であると断定することは適当ではないものとして佐藤貞郎及び小沢克明の二例がある。

すなわち、同人らは、先任者である女性の村山僖和子を追い越して昇格しているが、参加人らが主張するように、前記二1の冒頭に掲記の各証拠によれば、右二名の昇格当時においては、その理由はいかにあれ、女性はシニアに昇格させないことになつていたことを推認することができるのであり、右二例を直ちに先任順位を無視した例であると断定することは適当ではないというべきである。

ニ 詳細が不明なものとして斎藤光康、関博允、井上崇の三例がある。

(2) 以上を要するに、全一六例中、最上の先任順位にない者が昇格したもの、すなわち、昇格において先任順位に従わなかつたものが六例ある。そして、最上位の先任順位であつた者が昇格した例であつても、前認定のように、その昇格者は、当時の仕事に対する積極性、熱心さ、昇格後の昇進の状況等からしていずれも優秀で、かかる理由からシニアに昇格したものと推認され、このように一見先任順位に従つたと思われる場合であつても、必ずしも先任順位によつて昇格した、すなわち、先任であることだけを理由に昇格したとは断定できないといわなければならないのである。

このように考えると、原告会社の予約課において、先任順位は昇格に当たつての一つの要素となつていることまでも否定することはできないが、その比重は高いとはいえず、ましてや先任順位によつて昇格が決まるというほどの慣行があると認めるに足りる証拠がない。

(3) このことは、左のその他の事情をも総合勘案するとより明白である。

すなわち、シニアとジユニアの職務内容については、前認定のとおり、シニアにおいては、指導・監督的な職務内容となる点に最も大きな違いがあるのであり、特に予約業務についての専門的、技術的な側面における熟練度等においての区別が特色となるものではない。右のような違いがある以上、単に先任順位が上であるということは、シニアの適格性についてはほとんど意味のないことであり、当人の資質に負うところが最も大きいものというべきである。なお、この点につき、参加人らは、シニアとジユニアの職務の違いがほとんどなく、先任順位の上の者ほど適格性がある旨主張し、いずれも成立に争いがない乙第一六〇号証及び同第一六八号証(立川及び高野の審問部分)並びに右乙第一六八号証により真正に成立したものと認められる乙第八九号証の二は、これに沿うかの如き証拠とみられなくもないが(それとても、詳細に検討すると、それらの者も、先任順位の一事をもつて適格性があると考えているのではないことが分るのであり、実は、先任順位を重要な要素と考えているにすぎないものと解される。)、これらは、右に認定した事実からみて採用できないものというべきである。

また、労働協約の規定によると、前認定のとおり、昇格に要求されているのは、功績及び能力であり、先任順位が上位であることは要件となつていない。レイオフについては、先任順位がその基準の一つとされ、このような場合には労働協約に明示されているのである。

そして、原告会社の採用実態は、前認定のとおりであり、これによると、採用の時期、採用される者の年齢、学歴等はまちまちであり、原告会社においては、通常の企業のようにある一定の時期に一定の新卒者を同時に採用する場合よりも、より一層、先任順位を昇格の基準とすることが相応しくないものであるということができる。

そして、右認定のように、過去にも先任順位を追い越して昇格した例もあつたが、本件中村の昇格の例を除いては、いずれの場合も、参加人組合において、原告会社に対し、先任順位を守らないことについて、組合の活動として取り上げる形での抗議をしなかつたし、参加人城間も、本件までに後任の順位の者に追い越されていながら、その際に右のような抗議をしたことはなかつたのであり、組合員としては、昇格が先任順位によれば、従業員の間では落着きがよいであろうと考えられていたことは認められるものの、このように抗議等していないことからも窺われるように、原告会社予約課における昇格については何ら守られるべき拘束力ある基準、要素は存在していなかつたものと推測される。

さらに、原告会社の予約課以外の課における昇格を見ても、原告会社の整備課、運輸部貨物課、同部旅客課、同部搭載課、機内食課においては、先任者を追い越して昇格する例が相当数あり、中には、一〇人以上の先任者を追い越した例もあるのであり、ここにおいても、先任順位による昇格の慣行は認め難いのである。

(4) 以上のとおりで、原告会社予約課においては先任順位だけによるシニアへの昇格がなされてきたことを認めることはできないものというべきである。

かえつて、前掲乙第一三〇号証、同第一三二、一三三号証、同第一六二号証(猫田の審問部分)及び証人猫田肇の証言によれば、予約課におけるシニアへの昇格には先任順位を考慮することなく、労働協約に記載の功績、能力について勤務成績や勤務態度から判断すること、具体的には、仕事に対する態度、知識、能力、積極性、熱心さや指導力等を検討のうえ決定していくものであることが認められる(従来、昭和四五年頃までは、先任順位に従つて昇格が行われるという慣行があつたとする前掲乙第四八号証及び同第九〇号証は、いずれも以上のところから容易に措信できない。)。

(二) そこで、参加人らが第二次的に主張する、昭和五三年一一月の時点において、城間がシニアへの最適任者であつたとの主張について検討する。

(1) まず、昇格した中村については、すでに認定したように、出勤状況(中村の昇格の前年のものである。)を比較しても、城間に比し、始業時刻に対して余裕を持つて出勤し、勤務時間の開始と同時に業務に着手しうるような状態にあつたのであり、中村の業務に対する積極性等を窺わせるものである。

また、予約電話受付専門の業務を担当した場合の受付本数を両者で比較しても(これも中村の昇格の直前までのものである。)、中村は他の従業員の平均を上回り、城間は相当下回つていた。確かに参加人らが主張し、また前認定のように、単に本数だけ比較することの妥当性については疑問の点もあるが、右比較の結果は、約一年八か月の長期間の実績に基づくものであり、右のような疑問点を考慮したとしても、なお、業務に対する積極性、熱心さを推測せしむる一事情として考慮しうるものというべきである(なお、本件命令において指摘された受信記録の欠落部分は、当審において追完された。)。

そして、中村が、シニアに昇格前に、自発的にかつ執務時間外に、種々の執務上の参考書類を作成し、シニアに提出していたことは、前認定のとおりである。これらの書類の中には、既に誰でも執務上参照しうる、原告会社のインスタ・レズ・ハンドブツク等の資料をもとに作成されたものがあることは前認定のとおりであるが、単に抜粋したにすぎないというに止まらず、これらを要約し、一覧表にしたり、図案をとり入れたり、あるいは複数の資料を一本化したりして、工夫をし、正確で迅速な執務の遂行に役立てようとしたものであり、現実にどれだけ職場において役立つたかは必ずしもその詳細は明らかでないものもあるが、このような中村の態度自体業務に対する積極性を示すものとして高く評価すべきものであり、このような資質がシニアという職責を全うするために期待されているものであることは、前認定のとおりである。

中村の一般旅行業務取扱主任者資格の取得も、資格の付与こそシニアへの昇格後のことであるが、受験の準備及び受験はジユニアの時代にされたものであることは前認定のとおりであつて、これもジユニア時代における自己研讃による努力の賜物と評価しうるものである。また、右資格は、予約課の業務を遂行するうえで、必要不可欠というものではなく、原告会社もその取得を義務づけていないことは被告及び参加人らの主張するとおりであるが、業務に関連する資格であり、有用であることも前認定のとおりであり、また、この資格の取得も、原告会社が、労働協約において、取得を奨励している技量・資格に該当するものと解されるのである。

(2) 中村に仕事上のミスがあつたことは、既に認定のとおりである。

城間については、原告から種々の不適格性を示す事実が主張され、それは既に認定したとおりであるが、前記二2(三)(1)のうち、ロないしホの城間のミスは、いずれも中村の昇格後のことであり、また、これらのミスは城間の一般的な資質を推測させる限りでは考慮に値する事実ではあるが、本件城間の不昇格が正当な人事権を行使する目的のもとにされたものか不当労働行為意思に基づくものかを判断するに際してはこれを考慮する意義は認め難いものである。その他、本件昇格前の城間のミスに関する原告の主張・立証は、同イの松葉杖の客の件についてのみであるというべきである。

シアトルでのコンピユーター訓練の件は、昇格から五年前のことではあるが、城間の能力を示す事情として考慮しうるものである。

電報処理の点についても、前記電話の受理回数の点と同様城間の業務に対する積極性等について窺わせる事情である。

その他、城間に、その業務に関係しての発言に不適切な点があることも前認定のとおりである。

なお、前記二2(三)(4)のハは、本件昇格の後のことである点は、前記判示の点と同様のことがいえる。

城間の適格性については、かつての昇格における候補に挙がつたか否かについては、既に認定したとおりであり、参加人らの主張は認められない。そして、参加人らは、予約課の従業員らが、城間をシニアの適格があるとして、原告会社に対して城間をシニアにするよう要請する要請書を作成し、これに一九名が署名し、本件中村の昇格後、中村の昇格の撤回を求める要求書を作成し、二三名が署名したことが認められること、さらに、二名の既に退職しているスーパーバイザーが、かつて城間をシニアの適格性があると考えて推薦した旨の陳述書が提出されていることは、前認定のとおりである。その他、シニアへの昇格について城間が適任であるとする陳述書ないし審問調書として、乙第一五六ないし第一五八号証、同第一六八、一六九号証並びに右各証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六四ないし第六九号証、同第七二ないし第七四号証、同第七六号証、同第七八号証がある。しかし、これらの要請書等や陳述書、審問調書等の城間に関する適格性の記述は、その理由の主たるものは先任順位が上位にあるという点を根拠としているものであるばかりか(先任順位による昇格が行われているとは認められないことは、既に判示のとおりである。)、その資質に関するものもいずれも具体性に欠けているものであるから、そのことから直ちに採用できない。

(3) 以上を総合すると、業務上のミスについては、城間と中村を比較して優劣を論ずることは必ずしも適切とはいえないとしても、日常の勤務態度、仕事に対する積極性、熱心さ、意欲等においては、城間が中村と同等ないしはすぐれているものと認めるべき証拠はなく、かえつて、中村の方がはるかにすぐれているものと認められるのである。したがつて、前認定のようなシニア昇格において考慮される要素に照らすと、中村により適格性があるものということができる。

そうすると、本件は、よりすぐれた適格性のある中村がシニアに昇格したものであり、城間が昇格しなかつたのはそれ相応の理由によるものであり、そもそも不利益な取扱があつたとは認められないといいうるものである。

三  原告会社の城間の組合活動の嫌悪(不当労働行為意思)の有無

1  過去における原告会社の労使関係

いずれも成立に争いがない乙第一六号証、同第二〇ないし第二四号証、同第二七ないし第二九号証、同第四四号証、同第四六、四七号証、同第四九号証の一ないし三、同第五二号証の一、二、同第五五ないし第六〇号証、同第六二号証、同第八二号証、同第九一号証の一、二、同第一一九、一二〇号証、同第一二二、一二三号証、同第一二五ないし第一二七号証、同第一二八号証の一ないし四、同第一二九号証、同第一五六号証、同第一五九、一六〇号証、丙第一、第二号証、乙第一五六号証により真正に成立したものと認められる乙第一一八号証、乙第一五九号証により真正に成立したものと認めることができる乙第二六号証を総合すれば、原告会社の日本における従来の労使関係における紛争の概略は、次のとおりであるものと認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 昭和三九年一二月一日から翌年一月六日までの間、原告会社によりロツクアウトが行われる事態があつた。この正当性は、最高裁判所まで争われ、原告会社のロツクアウトは違法とされた。

(二) 昭和四二年一一月二二日、小泉組合執行委員長は、割引航空券の不正使用等を理由に解雇された。これは裁判で争われ、結局は小泉の職場復帰が認められた。

その他、昭和四三年にいわゆる枝広解雇事件があり、また、佐伯事件等も起つた。

(三) 昭和四八年には、ストライキの度にアメリカ本国や香港からスト破りの管理職が来るとして、参加人組合がこれを出入国管理令違反として告発する事件が発生した。なお、これは翌年不起訴となつた。

(四) また、アメリカ本国において、パイロツトがストライキをした際、日本において、レイオフがされ、この間の賃金は六割支給されたにすぎないことから、紛争となつた。

(五) その後、参加人組合は、原告会社が管理職を乱造しているとしてこれを問題とした。

(六) 昭和四九年には、いわゆる下請問題が生じた。すなわち、原告会社が特に塔載課等において下請を導入したことに対し、組合はこれを職業安定法違反だとして告発した。これは不起訴になつたが、要求及び闘争は継続され、四五日間というストライキ(大阪、沖縄の営業所を除く)も発生した。この闘争に付随して、組合員の受傷事件や、右大阪、沖縄の営業所の従業員が休業を命ぜられ、賃金が支払われないという紛争も生じ、裁判となつた。

(七) 昭和五〇年には、運航課閉鎖問題が起つた。

(八) 昭和五一年以後、組合員が逮捕される事件が起きた。

(九) 昭和五二年九月、原告会社は、組合三役等に対し、前記下請問題に関連する闘争に関し、二二億四〇〇〇万円の損害賠償を催告した。

(一〇) この他にも、原告会社の子会社である、富里商事(成田においてホテルを経営)においても労働基準法違反の問題等が生じている。

2  城間の組合活動歴

前掲乙第二六号証及び同第一五九号証並びに右第一五九号証により真正に成立したものと認められる乙第一三号証を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一) 城間の組合歴は、原告会社に入社した年である昭和四一年、参加人組合に加入し、昭和四四年七月から昭和四五年七月まで中央執行委員、昭和四六年七月から昭和四七年七月まで中央執行委員、昭和四八年から一期の間交通会館支部副委員長、昭和四九年八月から昭和五二年七月まで三期連続して本部書記長、昭和五二年七月以後本部の法廷対策部員というように組合の役員を歴任してきている。

(二) なお、城間が、本部の書記長に就いていた時は、前認定のように、下請問題が発生した時であり、前認定のように長期にわたる闘争が行われた時期である。そして、書記長の担当職務は、主として、組合ニユース等を担当して組合の方針を徹底させること、団体交渉に出席し、会社側と組合の中心になつて交渉の任に当たるということにある。

3  組合員の昇格例

成立に争いがない乙第八号証及び同第一〇号証、前掲乙第一五五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認めうる丙第四号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一) 中村は、もと参加人組合の中央執行委員を歴任したこともあるが、昭和五六年六月三〇日頃参加人組合を脱退した。

(二) まず、中村は、本件の昇格において、一三名の先任順位者を追い越して昇格したが、その追い越された人の大部分は組合活動家ではない。

(三) 組合役員に関する昇格の例としては、参加人組合の執行委員長等を歴任した(昭和四一年執行委員、昭和四二年財務部長、昭和四八年頃から執行委員長)機内食課の浜島は、昭和四六年一月一日、先任者を追い越して、パツカーからヘツド・パツカーに昇格したことがある。

(四) その他にも、整備課の小林、見滝、伊藤、水出、加藤もいずれも中央執行委員や支部の役員等組合の役員の地位にあつたことがあるが、先任者を追い越して昇格したことがある。

4  判断

前認定のような、原告会社と参加人組合の労使関係の経緯に加え下請問題等で労使が激しく対立した時期に城間が書記長としての重責を負い、組合活動において中心的役割を果たしていたこと、城間が書記長を退任した翌年に本件昇格問題が発生していること等の労使をめぐる諸事情に鑑みれば、一般的に、原告会社は、城間を嫌悪していたのではないかと推測できないではない。

四  不当労働行為についての判断(結論)

1  原告会社は、城間の組合活動を嫌悪していたのではないかと推測できないではないことは、右三に判示のとおりである。しかし、これは、あくまで、一般的な推測にすぎず、原告会社が、城間に対してとつた嫌悪していることの徴憑となるような具体的な事実については本件の昇格問題を除いては的確な主張、立証がないこと、さらに、右三に認定のように、組合の役員経験者も参加人らの重視する先任順位者を越えてまで昇格している例も相当あることに鑑みると、原告会社が城間の組合活動を嫌悪して同人を昇格させなかつたと断ずることは相当に困難であるといわざるをえない。

2  さらに、前記二で判示のように、原告会社の予約課のジユニアからシニアへの昇格において、先任順位による昇格の慣行が存在するものとは認められず、かつそうした場合、昇格した中村と昇格しなかつた城間とを具体的にその適格性について比較検討しても、城間がすぐれているとは認められず、かえつて、中村の方がより適格であることが認められたことからすると、まさに原告会社は適正な人事権を行使したものであり、その限りでは、何ら不当な点はないことになるのである。

3  そこで、以上の判断を総合すると、原告会社は、中村が城間よりもシニアとして適格性があつたからこそ中村を昇格させたもので、そこに真の動機があつたものというべく、城間の組合活動を嫌悪し、その組合活動の故をもつて、城間を昇格させずして理由なく中村を昇格させたものとは到底認められないものというべきである。

4  してみると、本件城間の不昇格は、不当労働行為であると認めることはできず、これを不当労働行為に該当すると判断し、原告に対して別紙命令書の主文のとおりの行為を命じた本件救済命令は、その余の点につき判断するまでもなく、不当労働行為の成否についての判断を誤つたものとして違法というべきである。

したがつて、本件不当労働行為救済命令は、すべてについて取消しを免れない。

第三結論

よつて、原告の本訴請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊昭 近藤壽邦 田中昌利)

(別紙)

命令書

(東京地労委昭和五三年(不)第一三一号・昭和五四年(不)第五号 昭和五六年一一月一〇日 命令)

申立人 ノースウエスト航空日本支社労働組合 外一名

被申立人 ノースウエスト・エアラインズ・インコーポレイテッド

主文

被申立人ノースウエスト・エアラインズ・インコーポレイテツドは、申立人城間恒に対し、昭和五三年一一月一〇日付でシニア・リザベイシヨン・セールス・エイジエントに昇格させるとともに、同日以降シニア・リザベイシヨン・セールス・エイジエントであつたならば受けるはずであつた賃金相当額(一時金を含む)と既に支給済みの賃金との差額を支払わなければならない。

理由

第1認定した事実

1 当事者

(1) 被申立人ノースウエスト・エアラインズ・インコーポレイテツド(以下「会社」という。)は、日本においては肩書地に東洋支社を有し、日本とアメリカ、台湾、香港、フイリツピンおよび韓国などとの間の航空輸送を業とするアメリカ法人であつて、日本人従業員数は現在約六〇〇名である。

(2) 申立人ノースウエスト航空日本支社労働組合(以下「組合」という。)は、昭和三五年六月二三日、会社に勤務する日本人従業員が結成した労働組合であり、組合員数は現在約四三〇名である。

(3) 申立人城間恒(以下「城間」という。)は、昭和四一年一一月一一日、会社の予約課にリザベイシヨン・セールス・エイジエント(一般予約課員)として入社、現在に至つており、その間同人は、組合の中央執行委員および書記長などの組合役員を歴任している。

2 本件城間の昇格問題に至るまでの労使紛争

組合結成以降、組合と会社との間で、組合委員長Kの解雇問題、ストライキ参加者に対する降格・定期昇給遅延の措置(都労委昭和四八年不第四五号事件、昭和五一年七月六日決定一部救済)などをめぐつて紛争が繰り返されてきているが、城間が組合書記長在任の期間中(昭和四九年八月ないし五二年七月)には、つぎのような労使紛争が生じた。これらの紛争において城間は、会社との交渉の際に常時矢面に立つなど主導的役割を果した。

(1) 四九年九月、組合は、会社の下請対策が職業安定法に違反するとして東京地方検察庁に告発する一方、その是正を求めて同年一〇月に数次、一一月一日からは連続四五日間のストライキを行なつた。このストライキ中一組合員が負傷したり、会社がストライキに参加していない大阪、沖縄の従業員に対し休業を命じるなどの問題が生じた。これらについて組合側は、損害賠償や賃金支払を求める訴訟を提起し城間もその証人に立つたりしたが、他方会社も一一月一八日、組合を相手どつて業務妨害行為禁止の仮処分を申請した。その後五二年九月、会社は、組合および城間を含む組合三役らに対して、内容証明郵便をもつて四五日間のストライキによつて二二億余円の損害を被つたとして賠償請求をした。

(2) 昭和五〇年一月、会社側の運航課閉鎖および同課員の配転に反対して組合が就労を強行したところ、会社は強行就労禁止の仮処分を申請した(この問題は結局、本人希望の配転扱いとすることで終つた)。

(3) 昭和五一年五月、組合の闘争方針をめぐつて組合員間でトラブルがおこり、その一方の組合員が暴力をふるつたとして逮捕され、会社は同人を解雇した。これに対して組合は、処分が重過ぎるとして解雇撤回を要求したが、結局会社は、同人の解雇を撤回した。

(4) また同月に行なわれたストライキの際、会社の貨物課長が、組合員二名から暴行を受けたとして警察に被害届を出したところ、両名は逮捕されたが、組合は会社や検察庁に抗議や要請行動を繰り返し、結局両名は不起訴処分となつた。

3 会社予約課の職位構成と業務

(1) 会社の予約課は現在、<1>マネージヤー(リザベイシヨン・セールス・マネージヤー)のもとに <2>アシスタント・マネージヤー(アシスタント・リザベイシヨン・セールス・マネージヤー) <3>スーパーバイザー(リザベイシヨン・セールス・スーパーバイザーおよびスペース・コントロール・スーパーバイザー) <4>シニア(シニア・リザベイシヨン・セールス・エイジエント)ならびに<5>ジユニア(リザベイシヨン・セールス・エイジエント)の職位で構成されており、課員は約四〇名である。そして、昭和五一年四月まではスーパーバイザー四名およびシニア六名であつたが、その後スーパーバイザーの職にあつた者の退職などにより、本件で問題となつている昇格のあつた五三年一一月一〇日以降は、それぞれ三名および五名に減少している(ただし、五二年九月以降は、新設されたアシスタント・マネジヤー一名をスーパーバイザーの人数に含む)。

(2) 予約課の業務は、電話での予約受付、団体客の員数確認、機内食の発注などの出発準備および電報処理などである。

その勤務時間は、スーパーバイザー以上の職に在る者は午前八時から午後五時または午前八時三〇分から午後五時三〇分までと固定しているが、シニアは午前八時から午後九時三〇分(五五年六月までは一〇時三〇分)までの間四シフト(始業時刻を四段階にずらした勤務体制)に分れ、ジユニアは午前七時から午後一一時までの間六シフトに分れている。従つて一日の勤務時間帯のなかにおいては、午前一時間、午後一時間三〇分(五五年六月までは三〇分)はジユニアだけの勤務となつている。

4 予約課における昇格の仕組みとその実態

(1) 会社と組合との労働協約で「従業員は功績及び上級の責任、技術を必要とする地位に任ずる能力に応じ、社内にかかる地位の生じたる際は昇進の対象として考慮される。」と定めているが、そのための試験は行なわれていない。そして予約課においてジユニアからシニアへ昇格(以下「シニア昇格」という。)をさせる場合には、マネージヤーがアシスタント・マネージヤーやスーパーバイザーの意見を聞いて昇格者を選び、最終的には東洋支社長(日本における代表者)が決定している。

(2) シニアに昇格すると <1>基本給の増額(昭和五三年度は月額五〇〇円) <2>昇給の頭打ち年限の延長 <3>レイオフの際には後順位になることなどの優遇措置がとられる。

(3) 予約課におけるシニア昇格の実態はつぎのとおりである。なお「先任順位」とは、同一職種において勤務年数の長さに従つた順番をいう。

整理

番号

昇格者

昇格年月日

昇格の態様

1

S1

いずれもH1の昇格以前であるが期日は不明

先任順位者として昇格

2

S2

3

4

H1

昭和三七年六月一日

三、四か月先に入社した先任順位者二名を追い越して昇格

5

S3

四一・六・一六

途中二か月余り転出していた者を追い越して昇格

6

M1

四一・九

先任順位として昇格

7

K1

四二・一一

8

K2

四三・八・一

一〇日先に入社した先任順位者を追い越して昇格

9

S4

四四・九

先任順位者として昇格

10

四五・一

11

H2

四五・八・一

先任順位者六名を追い越して昇格

12

S6

四六・九・一

M2(女子)のみを追い越して昇格

13

四八・二・一

M2(女子)を含む先任順位者三名を追い越して昇格

14

四八・三

M2(女子)のみを追い越して昇格

15

M2(女子)

四九・一二・二〇

先任順位者として昇格

16

NK

五三・一一・一〇

城間を含む先任順位者一四名を追い越して昇格

これによれば、概ね先任順位による昇格が行なわれてきているが、昭和四五年八月一日以降に昇格した整理番号一一番のH2一三番のTおよび一六番のNKについては先任順位によつていないことが明らかである。

(4) 会社の予約課以外の課においては、先任者を一〇人以上も追い越して昇格する例が多くみられ、その中には、組合の中央執行委員や支部委員長などを歴任した者もおり、また昭和四八年以降現在に至るまで中央執行委員長である浜島斑(機内食課)は、四六年一月にヘツドパツカーに昇格している。

5 城間のシニア不昇格と同人に対する評価

(1) 会社は、昭和五三年一一月一〇日、NK(四五年三月一六日入社)をシニアに昇格させたが、ジユニアの最上位の先任者であつた城間(四一年一一月一一日入社)を昇格させなかつた。このため城間らは、会社に対し苦情処理の申立てを行ない昇格にもれた理由の説明を求めたが、猫田肇マネージヤーは、労働協約上、苦情処理の申立ては、当該職位について社員一般から公募をし、これを応募をしたが採用されなかつた者についてのみ許される制度であつて、本件の場合には許されないと述べるにとどまつた。

(2) ところが会社は、本件審査において、シニア昇格に係るNKの適格性と城間の不適格性についてつぎのような理由をあげている。

<1> NKの適格性

ア 始業時刻より早く出勤するなど仕事について几帳面である。

イ 予約電話の受付専門の業務を担当した場合、電話を受けた回数が城間より多い(昭和五一年九月から五三年四月までの一年七か月の集計)。

ウ 業務改善に役立つ書類を自発的に作成している(引継ぎ日誌、出発便取扱手順の要約、アメリカにおけるビザ、バジエツト運賃、ペツトに関する手続き、国際線手荷物許容量、妊産婦予約受理条件、羽田空港内銀行案内および韓国におけるビザ)。

エ 「一般旅行業務取扱主任者合格証」を取得した(五三年一二月二五日)。

<2> 城間の不適格性

ア 足の不自由な乗客が窓際の座席を希望したが、そのとおりになつていなかつたとの苦情があつた際、城間にその旨伝えたところ、同人は「思い出せない。」と上司に答えた(昭和四三年)。

イ 機内食課への機内食の注文変更を誤つて指示した(五三年一二月)。

ウ 座席情報の連絡の際、誤つて前日の分を伝えた(五四年一〇月)。

エ 団体予約席記録照会の電報において搭乗地「香港」とすべきを「マニラ」と打つた(五三年一二月)。

オ ホテル手配の際、「クリーブランド」を「東京」とした(五四年四月)。

カ 昭和四八年、シアトルでの訓練に約二〇名が参加したが、城間は呑みこみが遅いと試験官から批評された。

キ 夜勤時の電報処理について、城間は他の者に比べて夜勤明け時における未処理電報の数が多い。

(3) 上記評価について、つぎの事実が認められる。

<1> NKが早く出勤するようになつたのは、シニアに昇格した後のことであり、城間も出勤時間を守つていた。

<2> 上記一年七か月の間の電話の受信記録のうち、NKについては昭和五二年二月下旬から一二月までの約一〇か月間、城間については同年三月下旬から一二月までの九か月間それぞれ欠落している。そして、所要時間や自らかけた場合の回数は記録されず、一回の通話で数件を処理したり、同一の機器を複数の者が使用する場合もあり、間違い電話や私用電話も最初に受けた人の回数に記録される。なお、城間は、受けた回数が少ないことについて上司などから注意を受けたことはない。

<3> NKが作成したとする書類の内容は同人がシニアに昇格した後に作成したもの(引継ぎ日誌)、既に予約課などに配布されていたものから抜すいしたもの(バジエツト運賃、ペツトに関する手続き、国際線手荷物許容量および妊産婦予約受理条件など)、予約課の業務には役立つていないもの(アメリカにおけるビザおよび国際線手荷物許容量など)などである。

<4> 「一般旅行業務取扱主任者合格証」の取得は予約課員として義務づけられていないものであり、またNKがこれを取得したのはシニア昇格後のことである。

<5> 乗客から希望通りの座席でなかつたとの苦情が出たのは、依頼を受けてからおよそ一か月後のことであり、予約課では多くの電話を処理することから、城間が記憶を喚起できなかつたに過ぎない。

<6> 機内食課への機内食の注文は正確であつたが、間違えて記録したに過ぎないため問題は生じていないものなど前記(2)<2>イ~オは、いずれもNKも含めた他の課員にも多くみられる程度のミスであり、またこれらの事柄は全てNKのシニア昇格後のことである。

<7> シアトルでの訓練の際に城間が批評されたことは、五年も前のことであるのみならず、そのことにより格別業務上の支障があつたともみられない。

<8> 夜勤時の電報処理は、夜勤開始前までの未処理数の関係などもあるので、単に夜勤明け時における未処理数だけで夜勤時の仕事量をはかることはできない。

(4)<1> 予約課のシニアとジユニアのうち過半数を占める一九名は、昭和五三年三月二四日、猫田マネージヤーに対し、欠員補充に際しては城間があらゆる点からシニア昇格の最適任者であるので選任するよう文書で要請した。

<2> 本件昇格問題前に会社を退職したスーパーバイザーのY(五二年一二月退職)およびS(五三年八月退職)は、本件審査で提出した陳述書において、城間が知識、貢献度などからしてシニア昇格の適任者であつた旨述べている。

第2判断

1 当事者の主張

申立人らは、会社が、先任順位などからみてもシニア昇格の最適任者である城間を選任しないで、他の者を選任したことは、城間の活発な組合活動を嫌悪したためであり、不当労働行為に当ると主張する。

被申立人は、会社における昇格は、先任順位によることなく、能力および成績などに基づいてなされるものであり、城間の組合活動を嫌つて同人を昇格させなかつたものではないと主張する。

2 当委員会の判断

(1) 前記認定のとおり他の課の場合はともかく会社の予約課においては、昭和四五年一月までは、先任順位者あるいはそれに準じた者が昇格しているが、それ以降は必ずしも先任順位によつていないものも認められる。

(2) ところで、会社がシニアとしてNKは適格性を有し、城間は不適格であるとする事由については、前段認定(第1、5(3))のとおり、<1>必ずしも正確に表示しえない受けた電話の回数や電報処理の多寡を問題としていること、<2>業務改善に役立つとするNKの作成した書類は、既に予約課などで配布されていたものからの抜すいしたものや業務上役立つていないものなどであること、<3>NKも含めた他の課員も犯している程度のミスを城間のミスとしてことさらあげていること、<4>城間が呑み込みが遅いとの批評も、本件昇格の問題とされている時よりも五年も前のことであることなどを考慮すると、NKについては過大な評価を、城間についてはことさら低い評価を与えていることがうかがえる。さらに、会社のいう両者の評価事由の多くは、NKのシニア昇格後の事柄であることを併せ考えると、NKについては、一四人の先任者をさしおいてシニアに昇格させるに足りる合理性が認められないのみならず、城間を不適格と評価したことの合理性もきわめて疑わしい。

(3) 一方、前記認定のとおり、本件昇格問題が生ずるおよそ一年前の昭和五二年七月までの約三年間、城間は書記長として下請対策をめぐる一連の事件や組合員の解雇問題などで、会社との対立抗争において中心的活動をしており、これについて、会社が快く思つていなかつたことが認められる。

(4) 以上、(2)、(3)および城間と同じ職場で働らいている予約課員や本件昇格前に退職したスーパーバイザーが、城間をシニア昇格の適任者であるとしていることからみて、会社が城間をシニアに昇格させなかつた真の動機は、城間の組合活動を嫌悪したものと推認せざるをえない。

(5) なお会社は、現在の組合委員長である浜島斌らも昇格をしていることからして、組合活動家を嫌つて昇格させないとの組合主張には理由がないなどともいう。しかし、浜島らの所属はいずれも城間と異なり、また浜島の昇格は同人の委員長就任以前のことであり、その他の昇格者は、組合役員であつても、必ずしも城間と同様の活動家であつたとはみられないから、城間の昇格問題と同一視することはできず、会社の主張は認められない。

(6) 申立人らは、第一次の主張として、シニアに欠員が生じたおよそ一か月後の昭和五三年一〇月一日付の昇格を、第二次の主張としてNKが昇格した同年一一月一〇日付の昇格を求めているが、予約課においては従前から欠員の生じた一か月後に昇格させていたとの具体的疎明はないので、五三年一一月一〇日付でシニアに昇格させることが相当と考える。なお、申立人らは、いわゆる「陳謝文」の交付を求めているが、主文の程度をもつて足りると思料する。

第3法律上の根拠

以上の次第であるから、会社が城間をシニアに昇格させなかつたことは、労働組合法第七条第一号に該当する。

よつて、同法第二七条および労働委員会規則第四三条を適用して、主文のとおり命令する。

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